腸管では善玉の酪酸が歯周ポケット内では重篤な為害作用がある理由

・p gingivalisに代表される歯周病原因菌が作る短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、イソ酪酸、吉草酸)のうち、n-酪酸によって神経突起が萎縮をして痛覚が阻害されるために、歯周病はあまり痛みを感じない一因となっている。
痛覚は生体防御機構の一つです。
痛覚が生じる部位には好中球などが集まって免疫システムが作動するのですが、痛覚が阻害されるとそれらの機構の働きが低下し、病態が進行していきます。
・酪酸は、低濃度であれば細胞の発育を促進する働きがあります。
腸管では酪酸が「善玉」と認識されているのは、腸管を保護する多量の粘液により酪酸の濃度が薄められるためです。
歯周ポケットの中で、歯周病原菌が生み出す酪酸は薄められることなく、蓄積・濃縮化していきます。
問題なのが高濃度の酪酸で、微生物の再活性化や細胞死の誘導により、全身に重大な疾患をもたらしえるという為害作用を持っています。
歯周病原菌は多量の酪酸を産生し、全身に影響を及ぼすのです。
アポロニア212015年12月号 )
*****
以前、重い歯周病でもご本人はあまり痛みを感じていなく、それゆえに来院が遅れてしまう場合があるという話を紹介しました。
そのメカニズムは、歯周病菌が代謝の際に出す酪酸が、痛覚の発現を阻害するとのことでした。
酪酸は、腸内では粘液により薄められることで身体にとってプラスに働く一方で、歯周ポケット内では蓄積・濃縮化されることが分かりました。
体内のあらゆる粘膜は、粘液によって濡れており、刺激が与えられるとその部位の粘液量は増大すると聞きます。
ということは、腸内では消化された食べ物が結構な頻度で通過するために、粘液が多量に分泌される一方で、歯周ポケットでは歯周病原菌が出す毒素がもたらす刺激は、それとは相対的に弱く、身体が刺激として感知しないために、粘液が分泌されない。
そしてその結果、酪酸濃度が高まり、細胞死を誘導することになり、歯周病では状態が悪化するとともに慢性化しやすいと推測されます。
インプラント周囲炎の場合も同様に状態が悪くても、ご本人は痛みを感じていないように感じます。
それについてのメカニズムは、歯周病とインプラントで同様なのかもしれません。

2016年1月 1日

hori (16:35)

カテゴリ:インプラント周囲炎

« インプラントの咬み合わせ調整 | ホーム | 根尖病巣を有する根管充填歯根管の微生物 »

このページの先頭へ