上顎臼歯部のインプラントの最近のブログ記事
ラテラルアプローチは1.痛み2.腫れ3.あざがいずれも3倍。
・2017年に報告された論文で、クレスタルアプローチとラテラルアプローチの合併症の比較が行われた。
その結果、クレスタルアプローチに比べてラテラルアプローチは1.痛み2.腫れ3.あざがいずれも3倍であった。
このことから、患者の侵襲やストレスを軽減するためにクレスタルアプローチを選択することを考慮するべきである。
(参考文献)
Al-Almaie S, Kavarodi AM, Alorf A, et al.: A splint-mouth design compariso for lateral and crestal sinus lift techniques with dental implants placements: Short communication. Open Dent J 11: 603-608,2017.
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患者さんサイドの苦痛が3倍なのであれば、直視できないという欠点はありますが、クレスタルアプローチを選択するべきでしょうね。
上顎洞内へのインプラント治療
・骨補填材を使用しないで上顎洞へアプローチした場合のインプラントの平均生存率は96-97%、骨造成のために骨補填材を使用して上顎洞へアプローチした場合の平均生存率は94-99.6%であり、骨補填材を使用する場合と使用しない場合を比較した場合、インプラントの生存率に有意差はないという報告もある。
また、上顎洞へアプローチする際に骨造成処置を行わないことがインプラントの生存に対するリスク要因ではないともいわれている。
(参考文献)
Rammelsberg P, Kilian S, Busch C, Kappel S.: The effect of transcrestal sinus-floor elevation without graft on the long-term prognosis of maxillary implants. J Clin Periodontol. 47(5): 640-648,2020.
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上顎洞内粘膜が剥離されて、穿孔・感染がなく、インプラントフィクスチャーでテンティングされた状態の際、フィクスチャーの直近には骨が存在している可能性があります。
同部位が骨補填材で満たされているとそれを目にした人が何となく安心であるくらいの意味しかないのかもしれません。
大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは骨吸収を招く。
・Souzaらは、ビーグル犬を用いた動物実験で、コニカル嵌合(片側8度未満のテーパージョイント)のプラットフォームスイッチングを1ミリ骨縁下埋入した。
埋入時に、エマージェンスアングル(インプラントのプラットフォームからの立ち上がり角度)が45度と15度のヒーリングアバットメントを装着した。
4か月の治癒期間を待ち、マイクロCTと組織形態計測学的にインプラント周囲骨と周囲軟組織を評価した。
マイクロCTを用いた測定では、インプラント周囲骨吸収を反映する指標である。
インプラントのプラットフォームからインプラントとインプラント周囲骨の最歯冠側での接触までの距離は、統計学的有意に45度が高い値を示した。
組織学的な計測において生物学的幅径(骨縁上組織付着)では統計学的有意差はなかったものの、やはりインプラント周囲骨吸収を反映する指標においては統計学的有意に45度が高い値を示した。
これらの結果から、45度のような比較的大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは、インプラント周囲骨の吸収と、インプラント周囲骨が支持する周囲軟組織を根尖側に誘導することを示した(生物学的幅径の再構築)。
(参考文献)
Souza AB, Alshiri A, Kammerer PW, Araujo MG, Gallucci GO. Histological and micro-CT analysis of peri-implant soft and hard tissue healing on implants with different healing abutments configurations. Clin Oral Implants Res 2018 ; 29(10) : 1007-1015.
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45度のような比較的大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは、インプラント周囲骨の吸収と、インプラント周囲骨が支持する周囲軟組織を根尖側に誘導することが明らかになりました。
上顎骨への繰り返し荷重は、2週後にリモデリングが確認可能。
・「ラット上顎骨に埋入したインプラントへの繰り返し荷重がインプラント周囲骨組織のリモデリングに与える影響」(長崎大学 右籐友督先生)
インプラント周囲骨組織における荷重応答性骨変化は、リモデリングを伴う骨構造の再編成によるものであることが確認されました。
さらにラット上顎骨での骨質変化が観察されたのは荷重開始から2週間後以降であることがわかりました。
またリモデリングを促進する因子としてSemaphorin3Aが関与することが示唆されました。
(インプラント ニュース 第33号 )
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骨結合が完全ではないけれど、アバットメントを介してプロビジョナルを装着する場合があります。
そのようなときに、2週間後のインプラント周囲の骨質にリモデリングの傾向がみられるのであれば、負荷を増大しても問題ないという一つの目安と考えることができますね。
サイナスリフト後に上顎洞炎を発症しやすい症例
・サイナスリフト後に上顎洞炎を発症しやすい症例
1. 洞粘膜肥厚5ミリ以上
2. 自然孔の狭窄をきたしやすい解剖学的構造
・長く細い篩骨漏斗
・複雑で小さな胞がたくさん集まる篩骨胞
・Haller胞(眼窩下壁の骨内部に存在する含気泡の)の存在
3. ポリープ(鼻茸)様病変のないこと
4. 急性または慢性の副鼻腔炎による液面形成または洞全体の不透過像
(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー )
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サイナスリフト後に上顎洞炎を発症しやすい症例には、ある特徴があるようです。
平均的上顎洞粘膜の厚さはどのくらいか?
・平均的上顎洞粘膜の厚さを0.8-1.99ミリとしている。
また、2mm以下を生理学的厚みとする報告もある。
ただし、2mm以下を正常と規定すると上顎洞炎と偽診断される症例が増えるとする意見もあり、5?を超えると次第に自然孔閉鎖リスクの上昇と相関し、結果として上顎洞炎を発症するというCarmeli らやShanbhagらの研究は説得力がある。
(参考文献)
Shanbhag S, Karnik P, Shirke P, Shanbhag V. Cone-beam computed tomographic analysis of sinus membrane thickness, ostium patency, and residual ridge heights in the posterior maxilla : implications for sinus floor elevation. Clin Oral Implants Res 2014 ; 25(6) : 755-760.
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平均的上顎洞粘膜の厚さには研究報告によってもばらつきがありますが、5ミリを超えない状況でインプラント治療を行う方が無難であるといえます。
上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合
・上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合は約23.3%であり、臼歯根尖が洞底粘膜に近接していることは珍しいことではない。
(参考文献)
Kwak HH,Park HD,Yoon HR, Kang MK, Koh KS, Kim HJ.: Topographic anatomy of the inferior wall of the maxillary sinus in Koreans. Int J Oral Maxillofac Surg. 33(4):382-388,2004.
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上顎洞粘膜剥離操作によって残存歯の栄養血管、神経を損傷すると、歯髄壊死から骨補填材に感染が拡大し、上顎洞炎へと移行する恐れがあるので、注意が必要です。
臼歯欠損部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントの生存率
・臼歯欠損部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントの生存率と12か月のフォローアップ期間後における生存率に影響を与える因子の探索:システマティックレビュー
(結果)
上下顎の臼歯部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントは3410本で、少なくても補綴装置装着後12か月以上のフォローアップ後における累積生存率は、96.45%だった。
患者の平均年齢は35-63.5歳だった。
年齢と生存率には相関がなかった。
上顎と下顎におけるショートインプラントの生存率は同程度だった(それぞれ96.57%と96.37%)。
異なるインプラントの寸法におけるショートインプラント生存率に対するオッズ比計測では、長径6ミリで直径4.1ミリのショートインプラント生存率(94.49%)が、全体の生存率に比較して統計学的に低い生存率を示していた(オッズ比1.59、P<0.05)。
同様に、長径と直径が4ミリのショートインプラント生存率(93.81%)は、全体の生存率と比較して低い生存率の傾向だった(オッズ比1.79、P=0.052)。
一方、長径6.5ミリで直径5ミリのショートインプラント生存率(98.52%)は、全体の生存率と比較して統計学的に高い生存率だった(オッズ比0.41、P<0.05)。
インプラントの直径だけを考慮した場合、4.1ミリは統計学的にもっとも生存率が悪く(生存率94.49%、オッズ比1.59、P=0.035)、5?は統計学的に最も生存率が良好だった(生存率98.28%、オッズ比0.48、P=0.012)。
(結論)
少なくても12か月以上のフォローアップ期間において、上下の臼歯部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントは、通常の長径を有するインプラントと同程度の生存率を有すると結論づけることができる。
(参考文献)
Al-Johany SS, Survival rates ofshort dental implants(≦6.5ミリ) placed in posterior edentulous ridges and factors affecting their survival after 12-month follow-up period: A systematic review. Int J Oral Maxillofac 2019; 34(3): 605-621.
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今回の報告で、直径5ミリ、長径6.5ミリのインプラントは、直径4.1ミリ、長径6.0ミリのインプラントよりも有意な差をもって生存率が高いようです。
使用しているインプラントシステムが、6.5ミリのインプラントを販売していないので、当院では使用したことがありませんが、機会があれば使用してみたいものです。
上顎洞内粘膜穿孔の発生率は粘膜の厚さが1.5-2ミリの場合に最も低い。
・穿孔の発生率は粘膜の厚さが1.5-2ミリの場合に最も低い。
穿孔の発生率が最も高くなるのは3ミリ以上の厚い粘膜又は0.5ミリ以下の薄い粘膜である。
(低侵襲上顎洞挙上手術 )
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上顎臼歯部にインプラント埋入を行う際、歯槽骨量が不足して増骨処理が必要となるケースは少なくありません。
そのような時、上顎洞内粘膜を挙上し増骨するわけですが、粘膜が穿孔すると増骨が失敗するリスクが高まります。
上顎洞内粘膜厚さが3ミリ以上の厚い粘膜又は0.5ミリ以下の薄い粘膜の場合には、より注意して挙上する必要があると考えられます。
自然口を直接観察できないことが多い。
・上顎洞への自然口は鼻腔内の深いヒダの奥深く(中鼻甲介の内側)に存在する小さな移行部であり、直径が5ミリを超すことはなく、通常は2ミリ以下である。
よって自然口の同定すらできないこともあるという。
したがって、内視鏡を用いても上顎洞全体を直接観察することは不可能であり、他の副鼻腔への自然口になるとさらに困難であることが推察される。
よって、耳鼻科医は副鼻腔自然口周囲の鼻腔側の所見やX線所見に基づいて、副鼻腔内の病変の有無や重症度を推察するわけである。
(インプラントジャーナル 2018年 76 )
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耳鼻科医は内視鏡を使用して、自然口を直接観察できるものと考えていましたが、そうではないことが分かりました。