2020年5月アーカイブ

1回の根管治療では術後疼痛は出現しやすいのか。

無症状でかつ鎮痛薬などを服用していない患者の再根管治療における、術後疼痛の出現および程度を、1回治療と2回治療で比較した臨床調査。
2回治療群では根管貼薬剤の違いで水酸化カルシウムとクロルヘキシジンのさらに2群に分け、術後7日目に根管充填を行った。
術後1日目、2回目、30日目において、1回治療群は2回治療群よりも術後疼痛の出現は有意に低かった(P<0.05)。
根管貼薬剤による術後疼痛の出現に有意差は認められなかった(P>0.05)。
(参考文献)
Edem Hepsenoglu Y, et al. Postoperative pain intensity after single-versus two-visit nonsurgical endodontic retreatment: a randomized clinical trial. J Endod. 2018; 44(9) : 1339-1346.
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日本では、保険制度の関係で根管治療を1回で行うケースはそれほど多くはないように感じます。
今回の報告で、必ずしも1回の根管治療の術後疼痛が出現しやすいというわけではないようです。
またむしろ、『術後1日目、2回目、30日目において、1回治療群は2回治療群よりも術後疼痛の出現は有意に低かった(P<0.05)』という結果が得られています。

2020年5月25日

hori (08:16)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

補綴装置として義歯を選択すると、残存歯喪失のリスクが3.65倍高い。

・補綴装置として部分床義歯を選択すると、その他の固定性補綴オプションの選択と比較して、残存歯喪失のリスクが3.65倍高い。
これは補綴治療の長期治療予後を分析した、ある後ろ向き研究の結果である。
これらの報告の中には、他の補綴オプションの選択が困難な口腔内状況の患者も含まれていると考えられ、RPDの適応症の広さゆえの結果ととらえることもできるだろう。
(参考文献)
Muller S, Eickholz P, Reitmeir P, et al. : Long-term tooth loss in periodontally compromised but treated patients according to the type of prosthodontic treatment. A retrospective study. J Oral Rehabil, 40: 358-367,2013.
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部分床義歯でばねがかかる歯には、元々その歯が受ける力以外に、義歯使用時に揺する力がどうしてもかかります。
そのため、義歯部分にインプラント補綴がある場合と比較して、残存歯喪失リスクが高くなるものと推測されます。
義歯にしても、ブリッジしても残存歯の犠牲のもとに成り立っている治療といえます。

2020年5月20日

hori (08:27)

カテゴリ:入れ歯の悩み

長顔女性への前歯インプラントは、将来的な審美障害に注意が必要である。

・Opdebeeckは1978年にショートフェイスシンドロームについて論じ、短顔の水平方向の成長(1.5ミリ)は長顔(0.3ミリ)の5倍、垂直方向では長顔21ミリ、短顔が9.5ミリで約2.5倍と報告している。
天然歯部位は近心へ成長・移動し、近心側への移動量は短顔の方が長顔より大きく、長顔では下顎前歯部で挺出および舌側移動の傾向が強い。
顕著なリスク要因を重ねると、上顎「短顔+女性+前歯インプラント→舌側に残る」、下顎では「長顔+女性+前歯インプラント→唇側に残る」という結果となる。
(参考文献)
Opdebeeck H, Bell WH. The short face syndrome. Am J Orthod 1978;73(5) : 499-511.
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問題となるのは、『短顔の水平方向の成長(1.5ミリ)は長顔(0.3ミリ)の5倍』よりも、『垂直方向では長顔21ミリ、短顔が9.5ミリで約2.5倍』の方です。
インプラントは歯槽骨に骨結合をしているので、三次元的な位置が変わりません。
一方、特に長顔の場合は、インプラント補綴が終了してから、歯槽骨の成長とともに、反対側の前歯の位置は大きく変化します。
21ミリも歯槽骨が成長されてしまうと、インプラント補綴と天然歯とでミスマッチな状態になります。
あるインプラントロジストは25歳以上なら、長顔女性でもインプラントを行うとしている一方で、40歳以上の長顔女性での前歯部インプラントで反対側天然歯との切縁位置にミスマッチが生じたケースがあるということも聞いております。
前歯部インプラントは将来的に審美障害が惹起される場合があることを知っておくべきでしょう。

2020年5月15日

hori (08:02)

カテゴリ:上顎前歯部のインプラントの

未処置根管により根尖病巣は惹起されやすいのか。

・CBCTを用いて、臼歯部の根管治療における未処置根管の影響を調べた研究
未処置根管および根尖病変へと診断するための診断基準は、
未処置根管では、
1.セメントエナメルジャンクションから根尖までの根管
2.歯根内で主根管から分岐した根管
根尖病変では、
1.歯槽硬線が破壊されている。
2.X線的根尖に関連する低密度領域が歯根膜腔の少なくても2倍。
歯種別の根尖病変出現率および未処置根管出現率を示す。
      未処置根管出現率     根尖病変出現率
上顎小臼歯    9%           52%
上顎大臼歯    40%           64%
下顎小臼歯    11%           45%
下顎大臼歯    23%            58%
根管病変は全体で59.5%にみられた。
未処置根管での根尖病変出現率は82.8%で、有意であった(P<0.05)。
根管未処置歯では4.38倍、根尖病変が出現しやすい。
上顎大臼歯MB2は65%が未処置であった。
下顎第一大臼歯遠心根は62%、および下顎第二大臼歯遠心根では78%で未処置根管がみられた。
(参考文献)
Karabucak B, et al. Prevalence of apical periodontitis in endodontically treated premolars and molars with untreated canal : a cone-beam coputed tomography study. J Endod. 2016; 42 (4) 538-541.
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上顎下顎にかかわらず、小臼歯は大臼歯よりも未処置根管があると、根尖病巣を惹起させやすいということが分かりました。
また興味深いのは、未処置根管出現率が部位別で最も高い上顎大臼歯では、根尖病変出現率がた部位と比較して、それほど高くないことです。
これは、上顎大臼歯でMB2の見落としの確率は高いものの、根尖病変出現率に直接的な影響は想像していたほど多くはないということになります。
一方、小臼歯で未処置根管があると大臼歯よりも根尖病巣の出現率が高いのは、根管の大きさがMB2よりも大きいことが多いことと関連があるものと推測できます。

フッ化物の使用は臼歯部よりも前歯部で高い効果が認められた。

・新潟県の一つの中学校の1年生に健診を行い、出身小学校でグループ分けしてう蝕経験歯面数を比較している。
人数はA校:145人、B校:157人、C校128人、D校:72人。
フッ化物配合歯磨剤の普及にしか実施できない古い研究だが、他の研究との比較などから、妥当な結果と考えられる。
教育だけでブラッシングや洗口をしない対照群のう蝕経験歯面数
A校 臼歯部 5.62
   前歯部 1.44
B校 臼歯部 5.28
   前歯部  1.82
ブラッシングを実施
C校 臼歯部 2.39
   前歯部 1.02
フッ化物洗口を実施
D校 臼歯部 3.73
   前歯部  0.23
(参考文献)
筒井昭仁, 小林清吾, 野上成樹, 堺修, 堀井欣一. 学校歯科保健における歯口清掃指導およびフッ化物洗口法の評価. 口腔衛生会誌 1983; 33(1): 79-88. 
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フッ化物の前歯部の効果は、(5.39-3.73)/5.39=1.66/5.39=0.308
フッ化物の臼歯部の効果は、(1.02-0.23)/1.02=0.79/1.02=0.7745
ということで、フッ化物の使用は臼歯部よりも前歯部で顕著に高い効果が認められたということになります。

根管治療後の歯列矯正はどのタイミングが良いのか。

適切な根管治療を行った場合に、いつから矯正移動開始できるかに関しては、現在まで明確なコンセンサスは得られていない。
Drysdaleらは6か月待つのが好ましいと報告し、ConsolaroやPaduanoらは、矯正力は治癒に影響しないため、15-30日でよいとという報告をしている。
(参考文献)
Consolano A, Consolano RB. Orthodontic movement of endodontically treated teeth. Dental Press J Orthod 2013 ; 18(4) : 2-7.
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根尖周囲組織がある程度治癒し、根管が無菌的に密閉したのちには、比較的早期に歯列矯正を行っても、あまり問題はないと個人的には考えています。
重要なことは、歯列矯正の内容が、生体が受け入れられる範囲内のストレスであるかどうかに関与しているように感じます。
インプラントも完全には骨結合していなくても、生体が許容できる範囲内のストレスであれば、負荷をかけても問題がないようです。

2020年5月 1日

hori (15:59)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

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