2018年2月アーカイブ

正常有歯顎者では、加齢による咬合力の低下は見られない。

・小島ら(2010)は、20-60歳代の年代別100名ずつ計500名(顎口腔系に異常を認めず、6か月以内の補綴治療の既往がない、可撤性義歯を装着していない)における最大咬合力を調査したところ、20-60歳代の平均値にほとんど差が認められず、その平均値が626Nであったと報告している。
このことから、正常有歯顎者では、60歳代であっても20歳代の咬合力とほぼ同等であることから、加齢による咬合力の低下は見られず、咀嚼能力は衰えないことが分かる。
(参考文献)
近藤康史, 中村健太郎, 他. 男女別における咬合力の統計学的検討- 咬合力の標準値について‐ . 補綴誌2011 ; 3・120特別号 : 257.  
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感覚的に義歯を装着していない正常有歯顎者の咬合力は、加齢による影響を受けないのではなかろうかと考えていましたが、それを裏付ける文献を見つけました。
各年代を100名ずつ集めるのは容易ではない可能性もありますが、個人的には、同じ条件で、70代、80代の正常有歯顎者の場合や、インプラント補綴で咬合回復した場合の研究結果にも興味があります。
今後に期待したいですね。

2018年2月25日

hori (08:54)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

4-IODは顎堤の吸収を守る。

・4本のインプラントを埋入した4本支持で、床をつけて加圧すると、インプラントが7割、顎堤が3割の支持割合になります。
ところが、前方2本だけのインプラントだと、インプラントが3割、顎堤が7割になると口腔内の測定から分かりました。
つまり、台形状に4本のインプラントで支持することで、インプラントが咬合支持の7割を負担してくれるの顎堤を吸収から守るのです。
(デンタルダイヤモンド 2018年1月号 )
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海外での下顎無歯顎の治療方法は、2-IOD、すなわち2本のインプラントを支持するオーバーデンチャーが第一選択であると聞きます。
しかしながら、2-IODを長期間にわたり使用すると、臼歯部の顎堤に過大な力がかかり、歯槽骨の吸収を惹起するそうです。
すなわち、2-IOD治療後に長期間が経過すると、下顎に固定性のインプラントブリッジの適応が困難となる可能性があるということなります。
そのような意味では、インプラントの本数をもう2本だけ追加して、4-IODの方が顎堤吸収という側面からは妥当性があるかもしれません。

2018年2月20日

hori (08:45)

カテゴリ:インプラントオーバーデンチャー

薬で治す歯周病治療は、臨床的意義があるのか?

・日本では、数年前にジスロマック(アジスロマイシン)を内服する歯周内科療法が流行った。
「歯周病は細菌感染症」なのだから、抗菌薬で治療しようとする発想は極めて"まっとう"だ。
海外に目を向けてみると、かなり前から抗菌薬で歯周病を治そうという試みがなされている。
様々な抗菌薬が試されてきた結果、アモキシシリンとメトロニダゾールの併用療法の成績がよろしいということになっている(海外ではなぜかアジスロマイシンはマイナーな扱いです)。
それでは、データがたくさんあって、ある程度の結果も出ているその併用療法でどのくらい歯周組織検査のデータが改善するかというと、プロービング値の改善、付着の獲得ともにだいたい平均0.6ミリ程度である。
これは統計学的有意差のあるデータである。
ここであなたに尋ねる。
「あなたの患者さんが0.6ミリ改善して、良かったと思いますか?」。
エビデンスが大切とは分かっていても、「統計学的有意差がある」ことと「臨床的意義がある」ことはイコールではないことが結構あるので、困ってしまう。
・日本では、肺炎球菌やマイコプラズマに対するマクロライドの耐性率は80%を超えている(ちなみにジスロマックはマクロライドです)。
20%を超えると治療の第一選択から外されるということを考えると異常事態である。
これを受けて"エライ"大学教授なんかは、テレビニュースのインタビューで「さらなる抗菌薬の開発が待たれる」なんて呑気なことを言っていた。
WHOでも、1990年ごろからまったく新しい抗菌薬の発見がなく、これからもずっと"発見の空白"が続くことが予想されており、今後は手持ちの抗菌薬をどのように使うかに焦点を当てるべきであると指摘している。
(歯科衛生士 2018年1月号 )
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ジスロマックを使用した歯周病治療では、歯周組織検査のデータが0.6ミリ程度の改善であること。
抗菌薬を服用すればするほど、耐性菌が増えてしまうこと。
これらを考えると、薬で治す歯周病治療は個人的には推奨できません。
厚生労働省が公開している日本人における死亡原因の年次推移のグラフでは、肺炎は脳血管疾患を抜いて3位になりました。
肺炎で亡くなる方が多いのも、日本人の「薬を飲むと安心する」国民性と関係があるのかもしれません。

根面板は必ずしも金属でなくてもよい。

・オーバーデンチャーの根面板の材料は昔から金属といわれてきましたが、今日ではグラスアイオノマーセメントやコンポジットレジンもあります。
材料による違いがあるのか比較検討したのですが、3つの材料で二次カリエスやぺリオの進行には全く差がないことが証明できたので、私は適材適所で使い分ければよいと思います。
(デンタルダイヤモンド 2018年1月号 )
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確かに、私も根面板は当然のように金属で製作するものと考えていました。
今回の報告で、根面板の材料にグラスアイオノマーセメントやコンポジットを使用しても問題がないことが明らかになりました。
歯科材料は日進月歩で変化しているので、例えば30年前のグラスアイオノマーセメントやコンポジットで同じ結果とならないことが推測されます。
日々研鑽する必要性を今さらながらに感じました。

下顎大臼歯部は最も根面齲蝕になりやすい。

・20-64歳の473名の被験者で根面齲蝕の罹患度とその分類を行った。
根面齲蝕は11.4%の歯根面に認められた。
また年齢階層別には、20代では1.1%だった根面齲蝕が60代では22.0%へと増加した。
根面齲蝕に罹患した歯を部位別に分類すると、すべての年齢階級において、下顎大臼歯部は最も根面齲蝕になりやすい傾向を示し(40%)、下顎小臼歯部(25%)、上顎犬歯(23%)、下顎前歯部(2%)が続いた。
また、必ずしも歯肉退縮との関連は認められず、たとえば上顎については、歯肉退縮が起こりやすい部位よりも、むしろ歯肉退縮が起こることで隣接面が根面齲蝕を発症しやすくなることが示された。
(参考文献)
Prevalence and intraoral distribution of root caries in an adult population. Katz RV, Hazen SP, Chilton NW, Mumma RD Jr. Caries Res 1982 ; 16(3) : 265-271.
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下顎大臼歯に根面齲蝕が頻発すること、上顎大臼歯にはさほど根面齲蝕が生じないことが明らかになりました。
上顎大臼歯よりも下顎大臼歯の歯磨きが困難であるとは考えにくいです。
唾液分泌量が減少すると根面齲蝕が増加するといわれていますが、上顎大臼歯と接触する唾液量は下顎より多いのかというと、「?」です。
アブフラクションによるマイクロクラックによっても、根面齲蝕が惹起されます。
歯槽骨の硬さは上顎よりも下顎で硬いことが多いので、歯牙に過大な側方力がかかった際には、下顎大臼歯の方がマイクロクラックが入りやすいように考えています。
一方、上顎大臼歯は歯槽骨が柔らかいゆえに、歯牙に過大な側方力がかかった際には、歯牙周囲の歯槽骨が破壊されるのかもしれません。
また、歯槽骨が破壊されるから、下顎大臼歯よりも根分岐部の数が多い上顎大臼歯は、歯周病が進行しやすく、マイクロクラックが入るよりも前に抜歯されている可能性もあります。

審美領域における光学印象は難易度の高い術式である。

・光学印象を直接法で用いる場合、作業模型がないので、得られたデータをもとに光造形モデルを起こして上部構造を製作しようとする試みがなされているが、まだまだ適合精度に問題がある。
間接法で行う場合は、ロボキャスト技術を用い、ラボアナログ付きの模型を製作することも可能であるが、粘膜貫通部の再現性が乏しい。
そして、何よりの欠点はデジタルコーディッドアバットメントの形態にある。
前歯部等の審美領域においてはティッシュスカルプティングを必要とするが、アバットメントの形態が円柱状であるために、スカルプティングを行うと、粘膜貫通部の上皮が破壊されやすく、アバットメントの着脱を最小限にすることと相反するため、ジレンマに陥ってしまう。
以上の点を考慮すると、いまだ審美領域における光学印象は難易度の高い術式であると考えられる。
アバットメント着脱を最小限にすることと、審美性を獲得するために、ティッシュスカルプティングを行いながら、審美的な補綴装置を製作する手法とは相反している。
また審美的な理由でジルコニアアバットメントを必要とする場合も多いが、強度を考慮すると適応症例は少なくなる。
一方、CAD/CAMアバットメントの利点としては、スクリューリテインの補綴装置を製作する場合、メーカーによっては鋳造のものと比べてアクセスホールを最小限にすることができるため、強度を上げることができる。
予めガイドサージェリーを用い、臼歯部においては咬合面の中央に、前歯部においては基底結節と切縁の中央に位置させることで、強度を保ちながらスクリューリテインの補綴装置を製作することが可能となる。
つまり、現時点ではデジタルデータのみでインプラント上部構造を製作することは難易度が高く、特に軟組織のマネジメントを考え、強度を有する上部構造を製作することは難しい。
(The Fabric of the Modern Implantology )
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最先端治療のCAD/CAMによるインプラント治療ですが、デジタルデータのみで臨床応用するには、現時点では困難であるようです。
今後に期待したいですね。

2018年2月 1日

hori (08:57)

カテゴリ:アバットメントの強度

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