2018年3月アーカイブ

義歯安定剤の効果的な除去方法

・義歯安定剤の効果的な除去方法
被験者は適合の良好な総義歯装着者20名で、1日3回クリームタイプの義歯安定剤を試用してもらい、1週間ずつ異なる方法で、義歯の清掃を行わせた。
(A)水で義歯を1日3回ブラッシングする。
(B)水とココナッツ石鹸を用いて義歯を1日3回ブラッシングする。
(C)水と歯磨剤(Colgate-Maxima Protecao Anticaries: Colgate-Palmolive)を用い、義歯を1日3回ブラッシングする。
(D)水で義歯を1日3回ブラッシングし、就寝前に5分間、過ホウ酸ナトリウム溶液に浸漬する。
の4通りである。
1週間後、染料を用いて上顎の義歯床粘膜面に残留している義歯安定剤を定量した。
同時に患者の唾液を採取し、カンジタ種を同定し、CFU(コロニー形成単位)を算出した。
その結果、水でブラッシングする(A)の方法に比べて、(B?D)の方法では有意に義歯安定剤の残留量は減少し、特に機械的清掃と化学的清掃を併用した(D)の方法で効果が高い傾向であった。
(参考文献)
Crossover clinical trial of different methods of removing a denture adhesive and influence on th oral microbiota. J Pros Dent 2016.115.
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義歯に歯磨剤を併用し、ブラッシングを行うと、歯磨剤の中の研磨剤によって、義歯には傷がつきやすくなるリスクがあります。
義歯に傷ができるとブラッシングで取り除けない義歯安定剤が生じやすいために、歯磨剤の薬効成分による効果と相殺された可能性があります。
また特に、Dの機械的清掃と化学的清掃を併用した方法で義歯安定剤の残留量が最も高い効果が認められたのも、バイオフィルムを除去したうえで、歯磨剤を併用したプラークコントロールを行う方法が効果的であることとイメージは近いように感じました。

歯石が形成速度は個人差が大きい。

・歯石が形成される速度は人によってかなり異なります。
2週間ほどでほぼ成熟する人もいれば、数か月から数年かかって形成される場合もあります。
これらの個体差がなぜ起こるかは不明ですが、唾液や歯肉溝滲出液中の無機質の成分やpHが影響すると考えられます。
そのほか、クロルヘキシジンによる洗口の副作用の一つに歯石形成の増加があります。
プラーク形成を抑制するクロルヘキシジンの使用で歯石形成が起こるというのは矛盾した現象のように思えますが、クロルヘキシジンンの陽イオンが、本来ならカルシウムイオンと結合する口腔内の物質と結合するためカルシウムの析出が起こり、それで歯石が形成されるという説明がされています。
(デンタルハイジーン 2018年1月号 )
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プラーク形成を抑制する事を目的にクロルヘキジンを使用するのに、その副作用に歯石形成がなされるというのは、何とも興味深い現象ですね。

咬合性外傷"力"の徴候

・咬合性外傷"力"の徴候
1. 年齢の割に歯周組織の破壊の進行がみられる。
2. 歯周組織の破壊の程度の割に歯の動揺がある。
3. 根分岐部病変が上下顎左右側にある。
4. プロービングデプスパターンが咬合型
5. 歯冠修復物の頻回の脱落、歯や修復物の咬耗
6. 歯根破折
7. 齲蝕はないが、冷水痛、知覚過敏がある。
8. ブラキシズムや日中の噛みしめの自覚がある。
(歯界展望 2018年1月号 )
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インプラント治療希望の方に、上に記した咬合性外傷"力"の徴候に該当する患者さんが多いように感じています。
歯を力で破壊してきた患者さんに対して、歯よりも感覚の鈍いインプラントを配置した場合、自分の歯よりも結果的に良く咬める状態になる場合すらあるので、どこかが破損してもあまり不思議ではありません。
補綴的により良いゴールを提供するとともに、経時的な変化を最少にする配慮が必要と考えられます。

2018年3月15日

hori (09:51)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

プラークが付着しやすい人と、しにくい人は何が違う?

・プラークが付着しやすい人と、しにくい人は何が違う?
実験的歯肉炎モデルにおいても、歯肉炎の発症が遅い人ではプラーク形成速度も遅いことが観察されています。
したがって、プラーク形成速度は歯肉炎の発症速度に影響すると考えられます。
それではプラーク形成速度の違いはどうして起こるのでしょうか。
Zeeらの研究では、11名の中国人を対象に実験的歯肉炎モデルを用いて、プラーク形成速度が速かった5名と遅かった6名のプラーク中の細菌を比較したところ、形成速度が速い被験者ではグラム陰性桿菌の割合が高いことが観察されました。
また、Simonssonらの同様の研究では、プラーク形成量が多い人は少ない人と比べて、ペリクル中のグルタミン酸の量が多く、疎水性相互作用がプラーク形成にかかわっている可能性を示唆しています。
また、歯と歯肉の境界部の面積が大きいとプラークが溜まりやすく、解剖学的な要素も影響すると考えられます。
さらに、歯肉に炎症があると健康な場合と比較してプラークが付着しやすいという研究結果も報告されています。
その理由として、炎症が強いと歯肉溝滲出液中のタンパクがプラーク細菌の栄養源となることや、炎症により歯肉溝部の面積が拡大しプラークが維持されやすくなることが考えられます。
(参考文献)
・Zee KY, Samaranayake LP, Attstrom R: Predominant cultivable supragingival plaque in Chinese "rapid" and "slow" plaque formers. J Clin Periodontol, 23(11): 1025-1031., 1996.
・Simonsson T, Ronstrom A, Rundegren J, et al. : Rate of plaque formation-some clinical and biochemical characteristics of "heavy" and "light" plaque formers. Scand J Dent Res, 95(2): 97-103,1987.
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プラークが付着しやすい人は、グラム陰性桿菌の割合が高いこと、ペリクル中のグルタミン酸の量が多いこと、歯列不正があること、元々歯肉に炎症があることなどの特徴があることが分かりました。
最初の2つの特徴については、それを変える方法は有りません。
一方、3番目と4番目の特徴については、歯列矯正を行い、歯根をパラレルにすることで、プラークが停滞しやすい部位をなくすすとともに、歯周病の治療を並行して行うことで、プラークが付着しやすい体質を改善することができると考えられます。

基本治療において、Er:YAGレーザーと超音波スケーラーは、どちらが有効か?

・基本治療において、Er:YAGレーザーと超音波スケーラーは、どちらが有効か?
中等度慢性歯周炎患者27名を対象に、ランダム化比較試験が行われました。
全身疾患、妊婦、12か月以内に歯周治療を受けて6か月以内に抗菌薬を服用した患者、および喫煙者は除外された。
研究はスプリットマウスデザインにて行われ、27人の患者の54クアドラント(1/4顎)、648歯面が対象とされ、右側と左側に同数振り分けられました。
1クワドラントにはEr:YAGレーザー、他の1クワドラントには超音波スケーラーが用いられました。
超音波スケーラーにはGuilin Woodpecker Medical Instrument社のピエゾタイプのものが用いられました。
そして、Er:YAGレーザーはFotona社のもが、波長2490nm、エネルギーレベル160mJ/pulsen、周波数10Hzにて使用されました。
さらに、すべての患者に口腔衛生指導が行われました。
PPD、CAL、BOPが治療前、6週後、12週後に測定されました。
また、VASによる患者自身による痛みについてのアンケートが行われました。
その結果、平均PPD、CAL、BOPは、レーザー群と超音波スケーラー群を比較して、統計学的有意差はありませんでした。
VASについては、超音波スケーラー群では平均2.67±0.46、レーザー群では平均3.58±0.50で、統計学的有意差は見られませんでした。
(参考文献)
Comparison of Er:YAG Laser and Ultrasonic Scaler in the Treatment of Moderate Chronic Periodotitis: A Randomized Clinical Traial . Birang et al. Journal of Lasers in Medical Sciences.
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この論文の筆者らは、Er:YAGレーザーは、歯周基本治療において、超音波スケーラーと同等の効果があるから、Er:YAGレーザーは歯周治療を行うのに適切な器具として使用できると結論づけていますが、私個人としては、わざわざ高額なEr:YAGレーザーを買わなくても、安価な超音波スケーラーで十分なのではなかろうかと考えています。

主機能部位が存在する位置と咬合接触面積と咬合力の関係

・主機能部位が存在する位置と咬合接触面積と咬合力の関係
(目的)
すべての正常有歯顎者において、ストッピングの圧平により示された主機能部位の範囲内に咬合力が発現する領域と咬合接触が認められた。
主機能部位に発現した咬合力の平均値は79.3N(SD55.2)であり、主機能部位の領域内の咬合接触面積の平均値は6.6平方ミリメートル(SD4.8)であった。
(結果と考察)
主機能部位が下顎第一大臼歯に存在する(M1)、第一・第二大臼歯間に存在する(MB)、第二大臼歯に存在する(M2)に分類し、
1.ストッピングが圧平され、咬合接触と咬合力が発現した部位は、M1が120側(59.4%)、MBが50側(24.8%)、M2が32側(15.8%)だった。
2.咬合接触面積の平均値は、M1では6.9平方ミリメートル(SD4.6)、MBでは6.4平方ミリメートル(SD5.7)、M2では6.0平方ミリメートル(SD4.5)であり、有意差は認めなかった。
3.咬合力の平均値は、M1では72.7N(SD)47.6、MBでは85.8N(SD59.1)、M2では93.8N(SD71.3)であり、有意差を認めなかった。
4.咬合力表示面積の平均値は、Mでは2.3平方ミリメートル(SD1.4)、MBでは2.6平方ミリメートル(SD1.8)、M2では2.7平方ミリメートル(SD2.1)であり、有意差を認めなかった。
以上のことから、主機能部位の位置によって、発現する咬合接触面積と咬合力には差異が認められなかった。
主機能部位が下顎第一大臼歯に存在する場合には、発現する咬合接触面積は大きい値を、咬合力は小さい値を示す傾向がみられた。
(参考文献)
山本司将, 中村健太郎, 他. 主機能部位が存在する位置と咬合接触面積と咬合力の関係. 補綴誌 2017;9・126特別号 :162.
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主機能部位が下顎第一大臼歯に存在するM1の場合と比べて、MBやM2では、様々な問題が生じると考えられます。
例えば、MBはM1やM2と比べて、フードインパクションが生じやすいことが挙げられます。
また、M2の咬合接触部位や咬合力の大きさによりますが、主機能部位が下顎第二大臼歯の遠心部にある場合は、近心部よりも歯牙や歯槽骨の破壊が惹起されやすいように考えられます。
さらに、下顎第二大臼歯の後方に下顎第三大臼歯の有無やそれが存在した場合の咬合接触も、何か結果に影響を与えそうです。
この研究報告では、「主機能部位の位置によって、発現する咬合接触面積と咬合力には差異が認められなかった」とのことですが、被験者を増やして再度同様の調査を行えば、有意差が出る可能性があります。
今後に期待したいところです。

2018年3月 1日

hori (08:53)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

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