抜髄により歯根膜の感覚閾値が低下する。

・局所麻酔は、侵害刺激の中のほんの一部である痛覚を遮断しているにすぎず、麻酔による除痛中であっても、組織は残る多くの刺激に対してダイナミックな応答をしていることを忘れてはならない。
抜髄処置そのものが、痛み中枢の脳幹に関わり、歯根膜組織の感覚閾値を低下させることも明らかとなっており、抜髄による歯周組織の感覚閾値低下は歯根膜感覚を論じる上での定説として確立している。
すなわち、抜髄による歯髄知覚神経の求心路遮断の結果、脳幹における吻側亜核や尾側亜核の機能局在が崩壊し、刺激と応答という特異的関係がなくなり、非特異的応答性に変化することから歯根膜感覚に閾値低下を生じるのである。
(参考文献)
長谷川誠実:顎間厚径弁別能における歯根膜感覚の役割. 岐阜歯科学会誌, 14(2):252-268, 1987.
Sessle BJ, Gerhard HF : Trigeminal neuralgia : current concepts regarding pathogenesis and treatment. 1st ed, Butter-Heinmann, Boston, 1991
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咬合痛がある患者さんの根管治療を行うと、一旦は痛みは消失します。
しかしながら、根管治療後に補綴治療を行った際に、稀に再度咬合痛があると訴える患者さんがいます。
VASでいうと抜髄前が10だとすると、抜髄後は1や2程度です。
そして、どのようなタイプの患者さんがこのような訴えをしてくるかと考えてみると、咬合力がその歯に集中し、歯冠破折を起こしてきた患者さんです。
抜髄を行うと、歯の知覚自体は大幅に閾値が上昇すると考えられますが、代償的に歯根膜感覚閾値が低下し、その歯を守るために知覚の回復を身体がオートマティックに行ってくれるようです。
また他の報告では、失活歯の咬み心地は、生活歯の半分程度であることも明らかになっています。
経験的に抜髄により歯根膜感覚が代償的に感覚閾値を低下させるのではなかろうかと考えてたところなので、今回ようやくそれを正しいとするエビデンスに出会うことができました。
さらに、歯冠破折を起こしてきた歯は、全体の咬み合わせが変化しなければ、将来その部位は歯根破折を惹起する可能性が高いものと考えられます。
そのような部位にインプラント治療を行うことは、そこに歯があった頃の数年前の状態に戻るだけの治療です。
咬み合わせの治療の一つのツールとして、インプラント治療を位置づけなくてはなりません。

2017年5月25日

hori (09:57)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

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