2017年8月アーカイブ

インプラントの生物学的幅径は一定ではない。

・インプラントの生物学的幅径は歯とは異なり、一定ではない。
上顎前歯部:4.5±1.4ミリ
上顎小臼歯部:3.7±1.3ミリ
下顎臼歯部:3.0±1.1ミリ
(参考文献)
Fuchigami K, Munakata M, Kitazume T, Tachikawa N, Kasugai S,Kuroda S: A diversity of peri-implantmucosal thickness by site. Clin Oral Implants Res, 28(2): 214-218,2017.
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天然歯の生物学的幅径は、歯牙の種類に関わらず3ミリ前後ですが、インプラントの生物学的幅径は前歯、小臼歯、大臼歯でそれぞれ異なることが明らかになりました。
元々の歯肉の厚みが薄い場合は、どの部位でもインプラント埋入深度は深めになりますが、前歯部では大臼歯よりも埋入深度をさらに深めに設定する必要があるということになります。
上顎前歯部におけるインプラント治療では歯槽骨幅が薄いため、唇側に十分な歯槽骨を残すことができず、その結果、歯肉が退縮する危険性がありました。
そのため、FGGやCTGなどによって歯肉の厚みを増大させる処置が必要となっていました。
ところが、上顎インプラントの生物学的幅径が大臼歯よりも多く必要になるということですから、付加的な処置を考えるよりも、まずは生物学的幅径を配慮しての埋入深度を決定するべきといえるでしょう。

2017年8月30日

hori (11:28)

カテゴリ:上顎前歯部のインプラントの

インプラント特有の病態

・インプラント周囲炎は歯周炎と異なり、
1. 頬側骨の吸収が顕著であること。
2. 骨代謝に影響を及ぼす全身疾患や服用薬の影響を受けること。
3. 術前の粘膜厚や骨量、セメント残留の影響を受けること。
4. 血清由来の縁下歯石の沈着が少ないこと。
5. 抜歯原因の影響を受けること。
6. アバットメントの材質や埋入深度の影響を受けること。
7. 接合様式や埋入術式、インプラント体の形状や性状等の影響を受けること。
8. 感染なき炎症(骨吸収像)が観察されること。
など、インプラント特有の病態も非常に多い。
(日本歯科評論 2017年8月号 )
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インプラントは、基本的には舌側あるいは口蓋側に埋入する場合が多いので、歯があった頃よりも頬側に歯ブラシが届きやすくなっているはずです。
しかしながら、どの部位の歯槽骨が吸収しやすいのかというと、歯ブラシが届きやすくなった頬側骨なのです。
また、歯石沈着が少なく、感染なき炎症が観察されるというのも、インプラント周囲炎の予防や対処が難しい理由といえるでしょう。

2017年8月25日

hori (09:42)

カテゴリ:インプラント周囲炎

肺炎球菌に対するマクロライドの耐性菌はドイツ9.5%であるのに対して、日本は77.9%。

・昨年4月1日、政府は薬剤耐性菌対策として「2020年までに13年比で抗菌薬の使用総量を3割減らす」という行動計画を発表した。
驚いたことに、こういった対策は日本では初めてらしい。
周知されていない事実だが、日本は世界的に見て「耐性菌大国」といわれている。
データは少し古いが、2000年前後で、肺炎球菌に対するマクロライドの耐性菌はドイツ9.5%、ブラジル15.3%、米国29.4%であるのに対して、日本は77.9%だった。
ヨーロッパではドイツやオランダといった北の国々の耐性率は低い(イタリアやスペインは高い)。
オランダなどはMRSAを発見したら隔離されてしまうが、日本にいる黄色ブドウ球菌の半分以上がMRSAである。
そういった状況でオランダの耐性率が低いというのは理解できるが、ブラジルのような新興国よりも日本は劣るのである。
(歯界展望 2017年8月号 )
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日本人は、医者から薬をもらいたがる国民という印象は、個人的には以前からありました。
今回の報告で、『肺炎球菌に対するマクロライドの耐性菌はドイツ9.5%、ブラジル15.3%、米国29.4%であるのに対して、日本は77.9%』というデータを拝見しました。
耐性菌の割合が高いということは、『少しの安心のために、必要ではない投薬が行われ、本当にその薬が必要な状況では、その薬は効かない』ケースが日本では多いということになります。
驚愕の数字です。
歯周病やインプラント周囲炎を薬で治そうとすることに対しては、個人的には否定的です。

2017年8月20日

hori (09:24)

カテゴリ:インプラント周囲炎

化学重合型レジンに軍配が上がるか?!

・光重合レジンは、何でも光重合型が適しているとは思えません。
特にボンディング材は光重合型だと、光が当たっている方向が重合収縮が始まるため、剥がれるリスクがあります。
一方、化学重合型であれば、温度が高い歯面に近い方向から重合するため、そのようなリスクとは無縁です。
臨床的に明らかな剥がれを経験することは稀ですが、近年のレジン材料は象牙細管にきっちりとレジンタグを噛ませる構造となっているので、むしろ注意が必要なのです。
これらは頑丈な分、剥がれようとする材料側の力が歯質を傷めやすいためです。
強い接着力が求められるようになった現在、歯質と修復材料との界面を封鎖する材料は、化学重合型の方が安全だといえるのではないでしょうか。
(アポロニア21 2017年8月号 )
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レジン充填が歯科治療として登場した時には、化学重合型しかありませんでした。
しかも歯髄刺激が強かったために、その後抜髄に至るケースも少なくありませんでした。
その後、光重合型がレジン充填の治療に登場し、だいぶ物性が改善されてきました。
現在では主流となって久しいというくらいです。
レジン充填という治療の予後は、接着がどの程度きちんとされているかによって、結果が大きく左右します。
そのため、各メーカーがこぞって接着力を向上させる努力を続けてきました。
その結果、レジン材料が頑丈な分、光重合によって剥がれようとする材料側の力が歯質を傷めるリスクが浮上してきました。
もしかすると、再び化学重合型が主流の時代が再来する可能性もあります。
こうして考えると、現在の主流であるファイバーコアによるレジンの支台築造も、本当に信用していいのかと考えてしまいます。
光の届かない部位では、常温でレジンが重合すると謳われているデュアルキュア型でも、根尖近くでは重合が完了していないかもしれないし、歯冠に近い部位では歯質が一部破壊される形で、接着が不完全である可能性もあります。
レジン支台築造は、一部の接着が確実になされている部分があれば、冠の脱離等は起きませんが、接着が不十分な部位からは、バクテリアが入り込む余地があると考えられます。
そうなると、接着にムラがあるかない、古くからあるセメント合着の方がいいという見方もできるかもしれません。

インプラント周囲粘膜炎はブラッシングで治るか?

・インプラント周囲粘膜炎はブラッシングで治るか?
要旨:インプラント周囲組織が健康な患者15人に対し、3週間にわたり実験的歯肉炎の手法(Loeら 1965)を応用して下顎インプラント周囲と天然歯にプラークを堆積させた。
その後3週間は適切な縁上プラークコントロールを行った。
実験開始日から7日ごとに天然歯とインプラント周囲の臨床パラメータを調べた。
パラメータ:プラークインデックス、BOP、プロービングポケットデプス(0.4?径のプローブを用い、0.2-0.25Nでのプロービング)、細菌叢、歯肉溝滲出液
結果:ブラッシングの中断に伴い、天然歯およびインプラントのプラークインデックス、BOPはともに増加したが、インプラント周囲の方がBOPは多く、より強い炎症反応が生じていた。
プラークコントロールの再開(22日目以降)により、天然歯、インプラントとも周囲組織の炎症の消褪が確認されたが、インプラント周囲組織の炎症は、3週間で消失しなかった。
臨床コメント:インプラント周囲粘膜炎は縁上のプラークコントロール(ブラッシング)によりある程度消褪する。
しかし、Loeら(1965)の歯肉縁の実験と異なり、3週間では完治しなかった。
インプラント周囲粘膜の治療には、より長い期間の縁上プラークコントロール、あるいは何らかの補助的な処置が必要かもしれない。
(参考文献)
Reversibility of experimental peri-Implant mucositis compared with experiment gingivitis in humans. Salvi GE, Aglietta M, Eick S, Sculean A, Lang NP, Ramseier CA. Clin Oral Implants Res. 2012; 23(2): 182-190.
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インプラント周囲粘膜炎のレベルでも、一度罹患してしまうと、中々元の良い状態には戻りにくいことが明らかになりました。
プラークインデックスは、42日経過後にはほぼ実験前の状態に戻っていました。
しかしながら、歯周の炎症の状態を把握する上で重要な指標であるBOPについては、専門家が定期的に縁上のプラークコントロールを行っても、42日間経過後も実験前の状態に戻っていないという結果でした。
歯周の状態が悪化しても、天然歯は比較的元の状態に戻しやすいですが、インプラントは中々元の状態にブラッシングだけでは戻りにくく、さらに付加的な処置が必要となる可能性もあるようです。

2017年8月10日

hori (16:08)

カテゴリ:インプラント周囲炎

天然歯とインプラントを連結するなら、キーアンドキーウェイで固定が有効。

・インプラントと天然歯を支台としたブリッジの固定形式
Langら(2004)は、天然歯支台とインプラント支台が混在したブリッジの長期生存率についてシステマティックレビューを行い、10年生存率を77.8%と報告している。
これは、インプラントのみを支台歯としたブリッジの10年生存率86.7%(Pjeturssonら 2004)より低く、設計上問題がなければ天然歯支台とインプラント支台が混在したブリッジは避けた方が賢明といえる。
しかし、歯周病に罹患した患者では、残存歯の歯牙移動により歯軸とインプラントの軸方向が異なる場合があること、上部構造やインプラント周囲組織への術後対応などから、天然支台歯のブリッジ部分とインプラント支台のブリッジ部分をキーアンドキーウェイで固定するのが有効である。
(歯周病患者のインプラント治療 )
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当院でも臼歯部にインプラント治療がされている患者さんの前歯部にブリッジがあるケースは少なくありません。
インプラント治療が終了して長期間が経過した場合、そのブリッジが前方に傾斜する形で、動揺度が増大することがあります。
そのような時、キーアンドキーウェイでインプラントとブリッジを固定するのも天然歯保存には有効かと考えられます。
ただ、インプラントと天然歯を連結すると、繋がれた天然歯が圧下される場合があると聞きます。
そうなると、ブリッジの遠心に凹みを形成し、その上からインプラント補綴を被せるような形態で、キーアンドキーウェイを付与するのが良いかもしれません。
仮に天然歯が圧下された場合は、キーアンドキーウェイが利かなくなるだけのことですから、大きな問題とはならないはずです。

2017年8月 5日

hori (15:38)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

歯周炎とインプラント周囲炎の両方を発症している方はあまりいない。

・最近Lindheらが、歯周炎に罹患しても同じ口腔内にあるインプラントには全く問題がない場合と、インプラント周囲炎を発症して歯周炎には罹患していない場合の方が、両疾患を発症している場合に比べて圧倒的に確率が高いと発表しています。

(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー 2017年 vol.24 )

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当院でインプラント治療を受けた患者さんの状態を考えても、歯周炎とインプラント周囲炎の両方を発症している方はあまりいないように感じます。

一般的な歯周病菌が、必ずしもインプラント周囲炎を引き起こしているとは限らないという報告もあるようです。

まだまだインプラント周囲炎については、明らかになっていない部分も多いということになるのでしょう。

2017年8月 1日

hori (15:51)

カテゴリ:インプラント周囲炎

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