2015年8月アーカイブ

クラックトゥース

・クラックトゥース
1964年にCameronは臼歯部の生活歯において象牙質、場合によっては歯髄まで及ぶ不完全破折をクラックトゥースと定義し、クラックトゥースシンドローム(CTS)という用語を初めて使用した。
症候群(シンドローム)とは、通常原因不明ながら共通の病態と様々な症状を示す疾患につけられる名称である。
クラックトゥースの原因は分かっているが、クラックの検知が難しく、様々な症状を呈するためこのような用語が使われるのであろう。
咬頭破折と比較して、破折は中央溝よりで深部に達することが多く、それにより歯髄や根尖周囲組織への影響が出現する場合が多い。
咬頭破折のように修復物が存在する場合、破折は中心に位置しないことが多い。
理由は喉頭内斜面にかかった力は窩洞の線角部分に集中し、破折方向も力の方向と同じ方向に伸びるからである。
修復物が大きければ破折線は破折線は歯髄から離れるため重篤な症状を呈さない場合が多い。
しかし小さい修復物が存在する場合、破折線はより深く歯髄腔に近づき症状も重篤な場合が多い。
また修復物が存在しなければ前述のような破折はより中心に位置する。
(歯牙破折の分類・診査・診断・マネージメント )
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いわゆる"クラックトゥース"により定期的に歯が破壊されてくる方がいます。
単純に詰め物が脱離するのではなく、歯が一部欠けるともに詰め物も脱離するのです。
現代はストレス社会ですから、上下の歯を頻繁に噛みしめた状態でいる方が少なくありません。
そのような方の場合、小さい詰め物が歯牙に押し付けられ続けるわけですから、側方の咬合力を頻繁に受け止めており、かつ金属の周囲で最もエナメル質の厚みが薄い部分にクラックが入るのでしょう。
歯にクラックが入ると、その部分から虫歯が進行し、そこから詰め物を接着しているセメントが溶出し、詰め物の脱離のスピードを速める結果となると考えられます。
また、頻繁に詰め物が脱離している歯では、それとは逆に歯自体は破壊されることは少ないように感じます。
そしてさらに、高齢者などで咬耗の程度が著しい方などで、きれいな天然歯が突然真っ二つに割れる場合も少なくありません。
このようなケースでは、咬耗により上下の歯牙の咬み合わせの接触面積が増大しているので、咬合力が上手く分散できなくなっています。
そのような状態になると、歯牙が負担できる力以上の咬合力が歯の重心に近い部分にかかり、ある日突然、歯が真っ二つに割れてしまうのです。
当院の患者さんでも、インプラント埋入手術の前日に、治療予定のない天然歯が真っ二つに割れてしまい、治療計画を急きょ変更した方がいます。
突然、修復物のない天然歯が、縦に真っ二つに割れたのです。
その方は、歯ぎしり・食いしばりの程度が顕著な方で、割れた歯も歯の溝が完全に失われていました。
その時の経験もあって、私は歯のないところにインプラント治療を行うだけでなく、インプラントを全体の咬み合わせの中でうまく機能させなければならないと考えるようになりました。
追加のインプラントが必要とならないことこそが、インプラント治療の真の成功と考えているからです。

ロケーターアタッチメントの機械的偶発症

・ロケーターアタッチメントの機械的偶発症
インプラント間角度が増加するほど、維持力の減衰は早期に発生することが分かる。
メーカー発表では交換頻度は3-4か月と謳われている。
1. インプラント間角度が0°
初回維持力81.75N
75%維持力低下 約6400回着脱
50%維持力低下 約1100回着脱
25%維持力低下 約500回着脱
2. インプラント間角度が10°
初回維持力が91.94N
75%維持力低下 約4800回着脱
50%維持力低下 約1100回着脱
25%維持力低下 約450回着脱
3. インプラント角度が20°
初回維持力が104.72N
75%維持力低下 約2900回着脱
50%維持力低下 約600回着脱
25%維持力低下 約200回着脱
4. インプラント角度が30°
初回維持力が84.86N
75%維持力低下 約3000回着脱
50%維持力低下 約800回着脱
25%維持力低下 約350回着脱
5. インプラント角度が40°
初回維持力が78.04N
75%維持力低下 約2100回着脱
50%維持力低下 約500回着脱
25%維持力低下 約150回着脱
(参考文献)
Al-Ghafli, SA., Michalakis, K.X., Hirayama, H., Kang, K. : The in vitro effect of different implant angulations and cyclic dislodgement on the retentive properties of an overdenture attachment system. J. Prosthet. Dent., Sep, 10 (3) : 140-147,2009.
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下顎無歯顎には、2本のインプラントのインプラントオーバーデンチャーが費用対効果が高いと言われております。
インプラント上部には様々な種類のアタッチメントがありますが、その中でも最近では、ロケーターアタッチメントが人気があります。
その人気の理由は、薄い製品であるために、結果的に義歯に十分な厚みが残されるので、再製作ではなく修理で対応が可能なケースが多いことによるものと考えられます。
ただこのロケーターアタッチメントは、毎日の着脱により次第に維持力が低下してきます。
具体的には今回紹介した文献にもあるように、2本のインプラント埋入角度が可能な限り平行である方が維持力が比較的安定する傾向にあるようです。
それでも、50%維持力が低下するのに約1100回程度ですから、食後3回・就寝前で一日4回着脱したとすれば275日。
すなわち義歯装着時より9か月もすると、義歯の維持力がだいぶ低下してきていると言わざるを得ません。
またインプラントの埋入角度が40°の場合であれば、50%維持力が低下するのに約500回程度ですから、メーカーがアタッチメント交換が3-4か月と謳っているのもこのような場合を想定しているものと考えられます。

2015年8月25日

hori (17:12)

カテゴリ:インプラントオーバーデンチャー

歯根破折は現代病!

・筆者は歯根破折を、ある意味、現代病であると位置付けている。
なぜなら、歯根破折は過去半世紀以前において、その研究データが蓄積されていないからである。
したがって、歯科補綴学は歯根破折という新たに生まれた病態により、いままでの補綴学の歴史を大きく変えるかもしれない。
いうならば、この現代病を克服することが、歯科補綴学にとってはビックデータ以上の価値を創生することに繋がるのではないだろうか。
(行田克則の臨床アーカイブ 補綴メインの長期100症例 )
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近年、歯科医院でのメンテナンスが定着して久しいです。
メンテナンスを定期的に受けていると、歯の長期安定が期待できます。
しかしながら、メンテナンスを受けてもいても避けられないのが、歯根破折といわれています。
歯根破折が比較的最近、頻発するようになったのにも、個人的には何か原因があると考えています。
その一つが、私たち人間が長生きをするようになったことと関係しているように思います。
人生50年の時代では、歯牙にクラックが入る前にお亡くなりになっていたので、歯牙のクラック由来の歯根破折があまり問題にならなかったのではないかと考えています。
クラックは小さいものが複数集まり大きなものへと経時的に変化していきます。
上下的に毎日のように咬合力がかかる歯牙は、いつかは割れてしまうというわけです。
しかも現代はストレス社会ですから、歯牙接触癖がある方も多いことも歯根破折がトピックになっていることと関連していることでしょう。
力が原因して歯牙を失ってしまった場合、他の条件を変えずにその場所だけインプラントに置き換えた場合、意図的に低い咬み合わせのインプラントを入れない限り、インプラントには過剰な力がかかるということは想像に難しくありません。
やはり、咬み合わせ治療のツールとしてのインプラント治療を、私たち術者は常に考えなければならいと考えています。

男性の方が女性よりインプラントが必要?!

・深井らの沖縄県宮古島における40歳以上の住民5730名を対象とした15年間のコホート研究で、機能歯数10歯以上を有する人とそうではない人の間では80歳を超えると生存率に有意差が認められた。
(参考文献)
Fukai k, Takiguchi T, Ando Y, Aoyama H, Miyakawa Y, Ito G, Inoue M, Sasaki H. Dental health and15-year mortality in a cohort of community-residing older people. Geriatr Gerontol Int 2007; 7 : 341-347.
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80歳以上まで長生きしたいなら、その時点でお口に機能している歯が10本以上存在していることが、"長生きのための秘訣"の一つとなりうるというエビデンスです。
また、男女とも80歳以上で有意差ありとされていますが、男性でp=0.003、女性でp=0.04と結果に大きく差があります。
p値(有意差)というのは、小さいほど両群に差があると判断します。
そうなると、80歳以上の高齢男性で、しかも機能歯数が10歯未満の人は本当に少数派で、ほとんどが10歯以上の機能歯数があるということになります。
男性で長生きしたいなら、女性以上に歯の数にこだわる必要があるといえるでしょう。
また、そのような意味では、女性よりも男性の方が長生きするために、(歯がないのなら)インプラントがより必要であるともいえるでしょう。
それにしても、興味深いデータです。

2015年8月15日

hori (15:48)

カテゴリ:インプラントについて

ピタッと合うのはレジン床?金属床?

部分入れ歯を作るときに、患者さんがまず迷うのが「保険の部分入れ歯にするか」「それとも自費にするか」だと思います。

(中略)

金属床の場合、クラスプから連結部、床までを、同一素材で1ピースのメタルフレームとして一体成型することができます。

あとからクラスプを付けたり右側と左側の入れ歯を連結させたりする必要がなく、設計通りの精巧な入れ歯が出来上がりやすいのです。

レジン床の場合は、クラスプはクラスプ、連結部歯連結部で別々に作って起き、それを後で組み立てるので、微妙な誤差が出がちです。

出来上がってすぐにはピタッとこないことが普通で調整を重ねながら仕上げていくことになります。

(どんなのがある? どう選ぶ? 部分入れ歯を知りたい! より)

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この本にも記載されているように、自由診療の金属床の方がクラスプから連結部、床までを同一素材で1ピースでメタルフレームとして一体成型できるので、保険診療のレジン床よりも精巧な入れ歯が出来上がりやすいといえます。

保険診療のレジン床(プラスティック製)は、かなりの誤差があるものと技工士さんも認識しているので、比較的緩めの設計にしているケースが多いように感じます。

レジン床は、様々なパーツがそれぞれ緩めであるがゆえに、また咬んだ時に金属床よりたわむ量が多いがゆえに、バネをかけた歯を揺さぶる結果となります。

すなわち、入れ歯を使用する時点で、歯を失うリスクが高まり、それと同時に使用する入れ歯の大きさが徐々に大きくなるということになります。

こうして考えると、自由診療の金属床は保険のレジン床よりはいいけれど、やはりバネをかけた歯をいずれ失う可能性が高いということになります。

そのような意味でも、インプラントの方が金属床よりも優先順位が高い場合は多いわけです。

2015年8月10日

hori (08:53)

カテゴリ:入れ歯の悩み

下水管ウイルスが根管感染を予防?!

・下水管ウイルスが根管感染を予防?!
下水道から採取されるウイルスが、薬剤耐性を持つ細菌が作り出すバイオフィルムを破壊し、特に歯科治療後の根管治療後の根管の感染を予防することができる。
イスラエル・ヘブライ大学のLeon Khalifa氏らの研究チームが、エルサレムの下水管から取り出したEDFG1と呼ばれるバクテリオファージにより、バンコマイシン耐性のあるE.feacalisを溶解する治療法を開発した。
バクテリオファージにより細菌を溶解し、根管の感染を予防する治療法が従来の抗生剤による方法よりも効果的で安全であることを示す一例として、「Applied And Environmental Microbaiology」誌4月号に発表したもの。
(アポロニア21 2015年6月号 )
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根管治療薬として欧米では第一選択とされている 水酸化カルシウムをして根管治療を行っても、難治性の感染根管には、E.feacalisが棲息すると聞きます。
今回紹介したエビデンスによると、このE.feacalisを撃退することができるウイルスが下水道から採取することができるそうです。
まだ一般歯科臨床に応用される段階ではないのでしょうけれど、インプラントが必要とならないようにするためにも、今後に期待したいところです。

2015年8月 5日

hori (15:50)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

慢性の歯周病が心筋梗塞に関係

慢性の歯周病が心筋梗塞に関係
慢性の歯周疾患があると、急性の心筋梗塞のリスクが高まる。
スペイン・グラナダ大学の研究グループが歯周疾患と心筋梗塞を結びつけるメカニズムを解明。
今後の展開に期待が集まっている。
過去に急性の心筋梗塞を発症した112人について、慢性の歯周疾患の程度、全身状態のマーカー、生活背景などを評価したところ、白血球、好中球の値が、心筋を動かす働きのあるトロポニン、ミオグロビンの値を介して、歯周疾患と心筋梗塞の関係に大きく関与していることが分かったもの。
昨年10月に歯科学術誌「JDR」が掲載した同大学のMesa Aguado教授(歯周病学)らの論文をアメリカ歯科医師会(ADA)が4月のニュースで解説した。
Aguado教授は、慢性の歯周病が心筋梗塞のリスク因子となるとする研究を続けており、「Journal of Periodontal Reserch」が2004年に掲載したケーススタディーは現在まで多数飲用されている。
今後は大規模な疫学的研究を行い、「歯周病を放置すると心筋梗塞になる可能性が高まる」という考えの根拠となるエビデンスを確立することが期待されている。
(アポロニア21 2015年6月号 )
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慢性の歯周病が急性心筋梗塞を惹起する可能性があることが分かりました。
埋入したインプラントが長持ちするためにも、心筋梗塞にならないようにするためにも、お口の中には歯周病に罹患した歯を放置しない方がよさそうですね。

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