上顎側切歯の予後不良が多い理由。

・上顎側切歯の特徴
特異形態(盲孔、舌側溝、副根、歯内歯)が出現する。
(クインテッセンス 2016年4月号 )
・舌面窩の上縁より、舌面歯頸隆線と辺縁隆線との境界部を通過する浅い溝をみることがある。
これを舌面歯頚溝(斜切痕)という。
溝が歯頚線を超えて、根面にまで達するものも存在する。
また、この舌面歯頚線の出現頻度は上顎側切歯が最も高い。
(日本人永久歯解剖学 )
・舌面窩最上端が尖頭となり、舌面歯頸隆線の下にもぐるこみ盲孔を形成する。
この盲孔はう蝕の好発部位である。
歯内歯は盲孔との関連があり、盲孔形成の異常とされている。
なお、上顎側切歯での盲孔の出現率は50%以上とされている。
(図説 歯の解剖学 )
・歯内歯とは、歯冠部の象牙質の一部が表層のエナメル質とともに歯髄腔内に深く陥入した歯の形態異常。
歯内歯は、その特殊な構造のために、齲蝕が多い。
(Wikipedia )
・人類の切歯は単根であるが、往々にして二根性の歯牙が出現することがある。
しかしながらこの二根性というのが下顎においてはほとんど等値の唇舌二根に分かれており、また上顎側切歯も大体において唇舌二根に分岐しているものの、その舌側は基底結節に相応した付加的なものが多いのである。
(九州歯科大学雑誌 上顎右側中切歯の唇側近心に副根を有する稀有なる一例 )
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上顎側切歯が上顎中切歯や上顎犬歯よりも予後不良が場合が多いような印象があったため、上顎側切歯の形態学的不利な側面を調べてみました。
その結果、特異形態として、盲孔、舌側溝、副根、歯内歯があることが分かりました。
上顎側切歯に盲孔があれば、歯ブラシが届きにくい形態をしているために、虫歯になりやすいでしょう。
また上顎側切歯に舌側溝があれば、その深さによりますが、その部分の歯周ポケットが深くなる傾向があるので、歯周病で歯を失うリスクは高いと言えるでしょう。
そのような意味では、上下顎の6前歯の中で歯内・歯周病変に最も罹患しやすいのは、この上顎側切歯の可能性があります。
さらに、根管治療が上手くいかないものの中には、副根の出現頻度が稀であるために、この副根の存在を歯科医師が見落としている場合もあることでしょう。
最後に歯内歯についてですが、構造が特殊故に虫歯になりやすいとされています。
上顎側切歯に関する他の文献では、親知らずに次いで退化傾向にあるとありました。
退化傾向にあるということは、萌出してこない場合も他の歯牙よりも高頻度で、円錐歯のような形態が正常な形態で萌出しない場合もあるということになります。
上顎側切歯は中切歯や犬歯よりも歯根表面積が少ない場合が多いですが、それが少ないということは、容易に歯列不正を惹起する可能性も考えられます。
上顎側切歯が形態学的にも不利なだけでなく、他の前歯よりも位置的にも歯磨きがしにくい傾向にあるということです。
具体的に説明をするならば、中切歯と犬歯にはじき出されるように、側切歯が内方に位置偏位を起こしているケースは歯磨きが容易ではないということです。
そうなると、前歯の中でも将来インプラントが必要な状態になる可能性が比較的高い側切歯を守るためにも、歯列矯正治療は有効な場合も多いかと考えられます。

2016年6月20日

hori (14:56)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

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