オールオンフォーは、天使か悪魔か?

オールオンフォーという術式に個人的には疑問を感じています。

この術式は、4本のインプラントですべての咬合力を負担させるというもの。

この術式を積極的に行っている歯科医師は、メリットばかりを強調しますが、果たしてこの術式は患者さまにとって、天使なのか悪魔なのか。

実はこのオールオンフォーという術式は歯槽骨が十分に存在する患者さまが適応になる術式です。

というのも、このオールオンフォーという術式は、実は十分に使用できる歯牙を抜歯して、そこにインプラントを埋入することの多い術式なのです。

ちなみに、オールオンフォーでは、18ミリもの長さのインプラントが多用されます。

(4本のインプラントだけですべての咬合力を負担させるという時点で、径は太く長さも長いインプラントを埋入する必要があるのですが、歯槽骨が十分に存在する部位というのは、歯牙周囲に歯槽骨が十分に存在している部位なのです。)

私の中での歯科治療におけるインプラント治療は当り前のことですが、残存歯牙の保存に役立てるというものです。

すなわち、歯牙を可能な限り保存して、保存できない場所あるいは、すでに欠損となっている場所にインプラント埋入を行い、残存歯牙の保存に役立てるというものです。

インプラントの本数を少なくするために、保存できる歯牙を抜歯するというのは、私の中では本末転倒と言わざるを得ません。

しかも、何かしらの原因で4本のうちの1本が撤去せざるを得なくなった場合、そのままの状態にしておけば、それ以外の3本のインプラントも負担過重が原因でロストという結果になると考えられます。

4本という本数は全体の咬合力を支えるうえで、おそらく最低限の本数だからです。

(私が、"おそらく最低限の本数"という表現をする理由は、オールオンフォーで長期に安定した状態を維持できている症例もあるからです。)

個人的には、オールオンフォーという術式は、自然と数年前に耐震偽装でメディアに取りざたされた姉歯偽装事件を連想してしまいます。


(しかしながら、天然歯をそれほど重要視していない患者さまにとっては、少ないインプラントの本数で奥歯まで咬めるようになるということは朗報かもしれません。

この場合は、オールオンフォーは患者さんにとって"天使"なような存在と言えるでしょう。)

話は少しそれますが、インプラントが撤去されるときに、何が原因となるのでしょうか?

その原因には、インプラント周囲炎やインプラント体の破折などが挙げられます。

インプラント周囲炎の場合、歯周病と同様に、辺縁骨からバクテリアによりダメージを受けますので、あまりにも頻繁にインプラント周囲の軟組織が炎症を起こす場合には、インプラントを除去し、それとともにインプラントの再埋入が必要となるからです。

(もちろん、インプラント体の破折の場合にも、再埋入が必要となるケースも多いです。)

インプラント周囲炎が発生して、どうしてもインプラントを除去しなくてはならない場合、長いインプラントはそれ自体が"リスク"になります。

すなわち、可能な限り長いインプラントあるいは太いインプラントが埋入されている場合、インプラントを除去し、再度インプラントを埋入出来ないケースは少なくないからです。

やはりどこまで行っても、患者さまの価値観によって、治療のゴールが決定されるということには変わりはないのかもしれません。

私たち歯科医師はあくまでアドバイザー的な役割となるでしょう。

そして私の考える 患者さまにとって生涯にわたり最もリスクの少ない治療方針は、天然歯牙を可能な限り残し、歯牙が欠損している部位に対して、そこにインプラントを埋入することで、最大限咬合力を負担させることで、残存天然歯の負担を可能な限り増大しないことであると考えております。

2010年4月17日

hori (20:34)

カテゴリ:コラム

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