上顎第一大臼歯の近心頬側根は、見落しのある歯根率が59.5%。

・根管治療で見落とされた根管による根尖病変発現率への影響
(目的)
本研究の目的は、CBCT画像を用いて既根管治療歯における見落とされた根管と根尖病変の関連性を解析することである。
(材料および方法)
2018年1-12月に8つの医療施設にて撮影された1160名(男性:497名、女性663名、平均48.38歳)のCBCTスキャンデータを5名の観察者によって評価した。
データは20836本の歯から2305本の既根管治療歯を抽出し、見落とされた根管および根尖病変の有無について歯種・歯根ごとに記録された。
(結果)
見落とされた根管は12.0%の歯に認められ、その82.6%に根尖病変が生じていた。
見落とされた根管の割合がもっとも高い歯種は上顎第一大臼歯(59.5%)であり、ついで上顎第二大臼歯(40.0%)、下顎側切歯(17.4%)下顎中切歯(12.2%)であった。
歯根別の割合では上顎第一大臼歯近心頬側根がもっとも見落とされた割合が高く(62.8%)、その75.2%に根尖病変を認めた。
ついで上顎第二大臼歯近心頬側根では49.0%で見落しとされており、その68.0%に根尖病変を認めた。
下顎では下顎第二大臼歯近心根で高率に見落しとされており(9.6%)、その92.3%に根尖病変を認めた。
適切に根管治療された場合と比較し、見落とされた根管のある既根管歯は有意に高率に根尖病変を称しており(P<0.05)、すべて歯種でのオッズ比は4.4、上顎第一大臼歯近心頬側根のオッズ比は3.1であった。
(考察)
本研究において見落とされた根管を有する歯の割合(12.0%)はCostaらによる報告(12.2%)と一致していた。
また、上顎側切歯と第二小臼歯の見落とされた根管はそれぞれ0.5%と2.4%、下顎中切歯、側切歯、および第二小臼歯は、それぞれ12.2%、17.4%、1.9%であり、これらの結果においても上記の報告と同様であった。
本研究では見落とされた根管を伴う既根管治療歯における根尖病変発現率は82.6%、オッズ比は4.4であり、Karabucakらによる報告(同発現率82.8%およびオッズ比4.4)と一致していたが、Costaらによる報告(同発現率97.5%およびオッズ比6.25)ではより高い値を示していた。
上顎第一大臼歯の近心頬側根は、もっとも頻繁に見落しのある歯根(59.5%)であり、他の報告と同様の結果であった(Karabucakら:44.2%、Costaら:59.0%)。
これらの結果は、近心頬側代に根管(MB2)の見落としが根管治療失敗に大きく影響を与える可能性を示唆している。
本研究結果から、見落とされた根管が高い頻度で根尖病巣の存在と関連することが示され、根管の見落としが根管治療の成績に大きな影響を与えることが示唆された。
(参考文献)
Baruwa AO, Martins JNR, Meirnhos J, Pereira B, Gouveia J, Quaresma SA, Monroe A, Ginjeira A. The influence of missed canals on the prevalence of periapical lesions in endodontically treated teeth.
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以前にも、見落し根管による根尖病変発現率への影響を取り上げた文献を紹介しましたが、上顎大臼歯の近心根管に見落しが多いという結論は共通していると感じました。
上顎大臼歯近心根の根管治療の際には、見落し根管がないか細心の注意が必要になるものと考えられます。

2020年7月15日

hori (08:49)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

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