キーストーン病原菌 P.g菌

・無菌マウスと通常の細菌叢が存在するマウスに、それぞれP.gを混入した懸濁液を2日に一度口腔内に注入しました。
すると、通常のマウスにのみ骨吸収が生じました。
しかし、それらのマウスから検出されたP.gの数はごくわずかで、全細菌叢の0.01%にも満たない数でした。
他方、その他の常在菌の数は増え、細菌叢も変化しました。
したがって、この場合のP.gの役割は、直接骨吸収を引き起こしたということではなく、常在菌の細菌叢の組成に変化をもたらし、その結果骨吸収が起こったということになります。
・通常の細菌叢をもつマウスで、補体という免疫にかかわるタンパクの一部(C3aまたはC5a:白血球を炎症部位に呼び寄せる働き)のレセプターがないものにP.gを与え続けたものです。
結果、通常のマウスのような骨吸収が起こらなかったことが観察されました。
そして、常在菌の数や組成も変化しませんでした。
すなわち、補体の一部が機能しないマウスでは骨吸収が起こらなかったということになります。
したがって、P.gは補体の一部を利用することで、常在菌の組成や量を調節する役割があり、その結果、炎症反応の増加や骨吸収が引き起こされると考えられます。
・これらの事実と、P.gの免疫応答や炎症反応を抑制する機能から、歯周炎における役割は、宿主の防御機能を低下させることで、常在菌の量や組成に変調を引き起こすことであると考えられます。
さらに、歯周炎患者のポケット内のP.gの量全体の割合は少ないことがほとんどです。
生物学では、少ない個体で生態系に影響を与えるような動物のことを「キーストーン種」とよびます。
P.gも、少ない数で常在細菌叢に大きな影響を与えることから「キーストーン菌種」あるいは「キーストーン病原菌」とよばれます。
(参考文献)
Darveau RP, Hajishengallis G, Curtis MA : Porhyromonas gingivalis as potential commmunity activist for disease. J Dent Res, 91(9) : 816-820,2012.
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全細菌叢の0.01にも満たない量のP.g菌が存在するだけで、常在菌の細菌叢の組成に変化をもたらし、その結果骨吸収を起こすことが分かりました。
P.g菌が直接骨吸収を引き起こしているわけでない点が、興味深いです。

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