荷重がかかる骨では、骨細胞のスクレオスチン産生がストップ。

・2008年にRoblingらは、マウスの橈骨に荷重をかけることで、骨細胞でのスクレオスチン発現が顕著に低下することを示した。
さらに翌年、Linらは尾部懸垂モデルによって後肢の力学的負荷をなくしたマウスの大腿骨で、スクレオスチンの遺伝子発現が上昇することを示した。
重要なことに、スクレオチン欠損マウスでは非荷重に伴う骨量減少が全く起こらないことが示され、非荷重に伴う骨形成低下の原因が、骨細胞のスクレオスチン発現の上昇であることが生体レベルで証明された。
さきほど、「ピエゾ電流説は現在ではほとんど否定されている」と述べた根拠もこのデータである。
もし、「ピエゾ電流」が本当に骨形成に重要であれば、スクレロチン欠損マウスでも非荷重下では骨表面のマイナス荷重がなくなり骨形成が低下するはずだが、実際には骨量も骨形成マーカーも全く減少しない。
これは、骨の歪みによる骨表面の荷重状態の変化よりも、スクレオスチン増減の方が「力」による骨量調節にとってはるかに重要であることを示している。
荷重がかからない骨では、骨細胞のスクレオスチン産生が更新することで「ここは力がかからないし、もうやすんでいいよ」と骨芽細胞に伝える。
一方で荷重がかかる場所では、「ここは力がかかる場所だから、骨芽細胞を休まず働かせて丈夫な骨にしてもらおう」という感じで、骨細胞はスクレオスチンの産生をストップする。
このようにして「力」の加わる場所では骨が増え、「力」の加わらない場所では骨が少なくなると考えられている。
スクレオスチンの働きを阻害する抗スクレオスチン抗体が骨粗鬆症治療薬として認可を受けた。
(参考文献)
Robling AG, et al. Mechanical stimulation of bone in vivo reduces osteocyteexpression of Sost/sclerostin. J BiolChem. 2008; 283(9) : 5866-5875.
Lin C, et al. Sclerostin mediates Bone response to mechanical unloading through antagonizing Wint/beta-catenin signaling. J Bone Minor Res. 2009; 24(10) : 1651-1661.
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上顎臼歯部で歯槽骨量が不足しているケースで、骨補填材に吸収の比較的早いものを選択し、インプラント埋入を行ったケースがありました。
ペリオテストで一度、良い測定値が出たので、『次回仮歯を入れましょう。」と患者さんにはお話ししていました。
たまたま患者さんの都合で数か月ブランクが空いてしまったのですが、再度ペリオテストで測定したところ、数字が悪くなっていました。
患者さんには、『インプラントが骨結合してから、無意味に免荷期間をおき過ぎると、インプラント周囲の骨量が目減りして、数値が悪くなったと考えられます。骨折しないレベルで負荷をかけていく方が再度良い数字が出るようになりますよ。』と説明し、予定通り仮歯を入れてリハビリテーションを行うことにしました。
今回の報告により、荷重を積極的に与えることで、骨細胞のスクレオスチン産生がストップすることが関係していることが分かりました。

2019年11月 1日

hori (08:34)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

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