2022年3月アーカイブ

大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは骨吸収を招く。

・Souzaらは、ビーグル犬を用いた動物実験で、コニカル嵌合(片側8度未満のテーパージョイント)のプラットフォームスイッチングを1ミリ骨縁下埋入した。
埋入時に、エマージェンスアングル(インプラントのプラットフォームからの立ち上がり角度)が45度と15度のヒーリングアバットメントを装着した。
4か月の治癒期間を待ち、マイクロCTと組織形態計測学的にインプラント周囲骨と周囲軟組織を評価した。
マイクロCTを用いた測定では、インプラント周囲骨吸収を反映する指標である。
インプラントのプラットフォームからインプラントとインプラント周囲骨の最歯冠側での接触までの距離は、統計学的有意に45度が高い値を示した。
組織学的な計測において生物学的幅径(骨縁上組織付着)では統計学的有意差はなかったものの、やはりインプラント周囲骨吸収を反映する指標においては統計学的有意に45度が高い値を示した。
これらの結果から、45度のような比較的大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは、インプラント周囲骨の吸収と、インプラント周囲骨が支持する周囲軟組織を根尖側に誘導することを示した(生物学的幅径の再構築)。
(参考文献)
Souza AB, Alshiri A, Kammerer PW, Araujo MG, Gallucci GO. Histological and micro-CT analysis of peri-implant soft and hard tissue healing on implants with different healing abutments configurations. Clin Oral Implants Res 2018 ; 29(10) : 1007-1015.
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45度のような比較的大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは、インプラント周囲骨の吸収と、インプラント周囲骨が支持する周囲軟組織を根尖側に誘導することが明らかになりました。

2022年3月15日

hori (08:24)

カテゴリ:抜歯即時インプラント

歯周病はなぜ進行しても痛くない?

結論をいえば、ジンジバリス筋などが歯周病原菌が産生する酪酸が、神経突起を委縮させるためです。
歯周病原因菌は、発育が遅く病原性も弱いため、痛みの刺激によって生体の防御機構が作動すると排除されてしまいます。
そのため、酪酸によって痛みを遮断し防御機構から回避していると考えられます。
ある意味、歯周病原菌の生き残り戦略といえますが、酪酸が神経突起を委縮させているということ自体、神経に以外作用を及ぼすものだといえます。
腸管で善玉として働いている酪酸が、歯周組織だと悪玉になってしまうのでしょうか?
腸管と口腔との最大の違いは、腸管はムチンの保護層が700μmと圧倒的に厚いという点です。
口腔のムチンの保護層は0.3-1μm程度です。
口腔粘膜は重層扁平上皮でできており、表皮が一部破壊されても、その奥にも次の表皮細胞があるため重篤な状態にはなりません。
しかし、腸管では養分を吸収するため上皮細胞が1層だけ並んでいる単層円柱上皮でできています。
そのため、上皮細胞を保護する分厚いムチン層が必須なのです。
ムチン層に守られている腸管では、糞便中の酪酸はそのままでは粘膜に接することはなく、腸管粘膜細胞を活性化させる善玉の働きだけを続けることができます。
しかし、ムチンの分泌量は、精神的なストレスなどの外的要因で大きく左右されます。
何らかの理由でムチンの保護層が薄くなると、酪酸が粘膜と接してしまい、組織破壊が起こるのです。
ストレスでポリープができたという病態のメカニズムは、このように説明できます。
一方、ムチンの保護層の薄い口腔では、酪酸による組織破壊がダイレクトに進行し、歯周病を引き起こすことになります。
(アポロニア21 2022年2月号 )
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同じ酪酸であっても、存在する場所によってマイナスの影響を与えることがあることがわかりました。

2022年3月10日

hori (08:36)

カテゴリ:インプラント周囲炎

オッセオデンシフィケーションを用いたインプラント埋入

骨治癒およびインプラントのオッセオインテグレーションに関するオッセオデンシフィケーションと切削による埋入窩形成法の比較:低骨密度ヒツジモデルにおけるex vivo組織形態学的/組織計測学的分析
(緒言)
オッセオデンシフィケーションという非切削ドリリングテクニックが適切な代替法として検討されている。
この方法は、次の2つの明確な利点をもたらすことが示されている。
1. 埋入窩形成時の骨切削片が骨壁に沿って水平的に圧縮され、骨密度を高めることで初期固定を高める。
2. インプラント-骨界面に自家骨骨片を保存することでオッセオインテグレーションを促進する。
本研究では、オッセオデンシフィケーションと従来法それぞれの方法で形成を行い埋入したインプラント体周囲の骨再生およびオッセオインテグレーションを評価することとした。
(結果)
3週間経過モデルにおける骨再生量は、オッセオデンシフィケーション群(7.8%±6.5%)と従来群(4.5%±6.5% )の間に統計学的な有意差を認めなかったが、6週間経過モデルでは、オッセオデンシフィケーション群(22.8%±6.5%)の方が従来群(14.9%±6.5%)と比べて有意に増加していた。(P=0.035)。
インプラントと骨とのインテグレーションを観察期間で評価したところ、BICは3週間経過モデル(22.5%±6.9%)と比較し、6週間経過モデル(52.6%±6.9%)の方が有意に高かった(P<0.005)。
また、埋入窩形成法の違いに関しては、3週間経過モデルでは、オッセオデンシフィケーション群(28.18%±11.9%)と従来群(22.14%±11.9%)と従来群(43.0%±11.9%)とで統計学的有意差を認めなかったが、6週間経過モデルではオッセオデンシフィケーション群(60.2%±11.9%)と従来群(43.4%±11.9%)とで有意差を認めた(P=0.032)。
さらにインプラント体のスレッド内の骨量(BAFO)は、埋入窩形成法にかかわらず、3週間経過モデル(44.2%±4.9%)と6週間経過モデル(46.4%±4.9%)とで有意差を認めなかった(P>0.05)。
また、BAFOを観察期間と埋入形成法を含めて評価すると、3週間経過モデルではオッセオデンシフィケーション群(48.3%±7.4%)と従来群(33.4%±7.4%)との間に有意差を認めた(P=0.01)。
同様の傾向は、6週間経過モデルでも確認され、オッセオデンシフィケーション群(51.23%±7.4%)が従来群(41.49%±7.4% )より統計学的に有意に高い値を示した(P=0.041)。
(考察)
オッセオデンシフィケーションでは、埋入時に骨に過度の負担をかけることなく、高い初期固定を獲得することができ、また、埋入窩の骨壁に切削した自家骨が残存することで骨形成を促進させることである。
本研究のオッセオインテグレーション群でBAFOが増加したのが、骨壁の切削片に起因することは明らかである。
この切削片が骨リモデリングを促進し、骨の治癒を促して、BAFOを大幅に増加させたと考えられる。
したがって、自家骨骨片とその細胞内外のたんぱく質を利用するオッセオインテグレーションは、従来法と比較し、自然な創傷治癒反応にプラスの影響を与えると考えられる。
(参考文献)
Mullings O, Tovar N, Abreu de Bortoli JP, Parra M, Torroni A, Coelho PG, Witek L. Osseodensication versus subtractive drilling techniques in bone healing and implant osseointegration : ex vivo histomororphometric analysis in a low-density bone ovine model. Int J Oral Maxillofac Implants 2021 ; 36(5) : 903-909.
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近年、インプラント治療を希望される方の中には、歯槽骨の状態があまり良好ではない方が多いので、今回のオッセオインテグレーションというテクニックが、インプラント治療の長期安定に寄与することに期待したいです。

2022年3月 5日

hori (08:30)

カテゴリ:抜歯即時インプラント

オーバーサイズドリリングのインプラントの安定性

・オーバーサイズドリリングのインプラント残存および安定性に及ぼす影響:通常プロトコルとの比較によるランダム化比較試験
(目的)
本研究の目的は、オーバーサイズドリリングのインプラント安定性への影響とオッセオインテグレーションにおける骨反応への影響を検証することである。
(材料および方法)
本研究は上顎臼歯部に埋入された20本のインプラントに関する前向きパラレルランダム化比較試験である。
10本ずつ2群に分け、一方の群(MR群)ではメーカー住要通りの埋入窩形成を行ったのに対し、もう一方の群(オーバーサイズドリリング「OD群」)ではオーバーサイズの埋入窩形成(形成深度3-5ミリ)が行われた。
インプラントの安定性は術後3か月の間共振周波数分析(ISQ値)によってモニターされ、辺縁骨レベルは6か月後の平行法デンタルX線撮影によって評価された。
疼痛、腫脹、満足度、インプラント残存率など、患者報告アウトカムは試験期間中を通して記録された。
(結果)
MR群では、最初の4週間はISQ平均値の低下が認められたが、その後は徐々に上昇が認められた。
一方、OD群では、ベースラインから12週目までの全追跡期間において、ISQ値の急激な上昇が認められた。
ベースラインと6か月後における辺縁骨レベルのX線写真比較では、OD群では0.908±0.343ミリであったのに対して、MR群では1.3±0.23ミリであり、群間に統計学的有意差が認められた(P=0.00)。
(結論)
本研究の限りにおいて、オーバーサイズのインプラント埋入窩形成では、メーカーが推奨する埋入窩形成と比較し、インプラント安定性および術後の回復が早くなる可能性が示唆された。
しかし、これらの知見を確認するにはさらなる研究が必要である。
(参考文献)
Seleem A, Tawfik OK, El-Nahass H. Evaluation of oversized drillig on implant survival and stability versus traditional drillig technique: randomized trial. Int J Oral Maxillofac 20221 ; 36(4)771-778.
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実験に使用されたインプラントは直径4.0ミリ、長さは10ミリあるいは11.5ミリとのことでした。
また、埋入するインプラントの辺縁骨寄り30-43%の部位をオーバーサイズドリルを併用したということになります。
これは、すなわち、辺縁骨の皮質骨を中心に初期固定を得るよりも、インプラント先端に近い部位で初期固定を得た方が結果が良いということになるでしょう。

2022年3月 1日

hori (08:13)

カテゴリ:抜歯即時インプラント

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