2017年12月アーカイブ

フッ化物の摂取で歯槽骨吸収予防?!

・水道水フッ化物濃度0.6ppm未満の低F地域、0.6-1.2ppmの至適F地域、3ppmを超える高F地域に住む35-44歳の、無作為抽出された967名の歯周状態を調査した疫学研究がある。
その結果では、低F地域の住民の方が、歯周ポケットを有する者が多く(OR=1.3)、8ミリ以上のアタッチメントロスを有する者が多かった(OR=1.94)と報告されている。
つまり、フッ化物の摂取によって歯槽骨吸収が予防できる可能性が示唆されている。
(参考文献)
Kumar S, et al. Fluoride-an adjunctive therapeutic agent for periodontal disease? Evidence from a cross-sectional study. Med Oral Patol Cir Bucal. 2009 ; 14(10) : e547-553.
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今回の報告により、フッ化物の摂取によって歯槽骨吸収が予防できる可能性が示唆されました。
これまでフッ化物といえば、虫歯予防でした。
フッ化物が、歯周病の予防にもなるとなると、歯科医学は日々進化していると感じざるを得ません。
常に情報をアップデートしていかなくてはなりませんね。

母親の妊娠中の喫煙量が多いほど、その子供が歯の先天性欠如である可能性は高くなる。

・妊娠中女性の1日に10本以上の喫煙は、子供の歯の形成に悪影響を及ぼす可能性があることがオタゴ大学の研究で報告された。
歯の先天性欠如(本研究では永久歯5本以下の欠如として定義)の小児83名が欠如のない小児253名と比較された。
小児の母親に対しては、妊娠中の能動・受動喫煙への曝露の程度、およびカフェイン・アルコール摂取量が調査されている。
研究を主導したMauro Farella教授は、歯の先天性欠如と喫煙が正の相関関係にあると指摘するが、アルコール、またはカフェイン含有飲料の摂取と疾患との関連性については、本研究では確認されていない。
本研究のチームの一員で、同大学歯科矯正学部長でもあるFarella教授は、「母親の妊娠中の喫煙量が多いほど、その子供が歯の先天性欠如である可能性は高くなる」と述べ、さらに「母親の喫煙と疾患の関連性を裏付けるには、さらなる研究が必要な物の、喫煙が歯胚の中の神経堤細胞に直接損傷を与えるという説明が妥当」と語る。
実際、本研究結果は妊娠中の喫煙が対峙に及ぼす悪影響を示す他のエビデンスとも一致する。
いくつかの研究により、妊娠中の喫煙は早産、低出生体重または死産のリスクを高めることが示されてきているからだ。
(参考文献)
Farella M. et. al. : Material smoking during pregnancy is associated with offspring hypodontia, J Dent Res 2017 Aug; 96(9) : 1014-1019.
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先天欠如のある小児は最近増えているように感じます。
先天欠如があるがゆえに、インプラント治療が必要となるケースも少なくありません。
自分の子どもが将来先天欠如にならないようにするためにも、母親は妊娠中に喫煙を控えた方がよいということになります。

日本人の上顎中切歯はシャベル型切歯。

・一般にアジア人、特に中国人や日本人は、欧米人に比べて歯は大きく、根が短い。
このことは昔、名著といわれる岩波新書の「歯の話」を書いた東京大学教授・藤田恒太郎が次のように欠いている。
「日本人の歯はずんぐり型であり、白人の歯はやせ形で長い。」
・上顎中切歯の舌側面にみられる深い舌側面窩は、日本人や中国人をはじめとする東北アジア人の人々の特徴である。
東南アジアの人々では窪みの程度がもう少し弱く、ヨーロッパ人などではもっと程度が低くなり、くぼみが全くない人もたくさんいる。
(日本歯科医師会雑誌 2012年11月号 )
・生体がコーカソイドの白人とモンゴロイドの日本人では咬合の形態も機能も異なる。
咬合器に日本人の上下顎模型を付着すると、下顎が白人のそれよりも前傾で相当後退します。
咬合学は、欧米の歯科矯正顎に起源があると言われている。
アルファベットを使ういわゆる白人は、たとえばthatのような「th」を発音する際には、下顎を前方に移動させ、上下顎中切歯が対抗する位置で舌尖を軽く挟み、下顎を後退させながら「θ」発音をしますので、その発音をする際には予め発音しやすくするために、下顎を前方へ移動させています。
そのために、会話ができるようになった古代からグループファンクション咬合が多く、その骨格形態になったといわれています。
したがって、調節性咬合器に白人患者の上下顎模型を付着すると、下顎が上顎のほぼ垂直下方に位置付けられますが、そのような歯音を使わず、発音に関わる下顎位が必要ではない日本人の上下顎模型は、一般的に被蓋が強く、下顎が前傾し後退して不安定な状態で付着されます。
このようなことは白人の無歯顎補綴治療でもいえ、「f」や「v」発音では、上顎中切歯切縁が下唇の接合千に接触することから、上顎前歯の位置の決定に応用されています。
(咬み合わせの科学 vol.36 no.1・2 )
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日本人の上顎中切歯の舌側面にみられる深い舌側面窩が深いということは、辺縁隆線の発達が顕著であるということになります。
そのような状態で、下顎切歯唇面と上顎の辺縁隆線の距離が近接することになるので、結果として、オーバージェットが大きくなります。
またそれと同時に生じるのが、辺縁隆線の発達がほとんどないヨーロッパ人よりも顎位が後方に移動しやすいことです。
これにより、日本人では肥満傾向にない方でも睡眠時無呼吸症候群の方が少なくないことと関係しているように感じます。
そしてさらに、前歯部の咬み方が不足しているために、被蓋が深い方向に変化しやすいのかもしれません。
インプラント相談に来られる方を診ていると、前歯部のアンテリアカップリングがあっても、前歯部が機能できない状態にあるために、ミューチュアリープロテクティドオクルージョンにならない方が少なくありません。
『日本人の上下顎模型は、被蓋が強く、下顎が前傾し後退して不安定な状態で付着されることが多い』ことも、前歯部の舌側面窩が深いことと関係があると推測しています。

インプラント周囲炎と歯周炎の両疾患で共通した細菌種はわずか3種。

・Shibliらは44名の被験者(健常インプラント群22名、インプラント周囲炎群22名)の歯肉縁上と歯肉縁下プラーク細菌叢を比較したところ、歯肉縁上と歯肉縁下プラークでともに、Red complexに属する3菌種が有意に高い割合でインプラント周囲炎群から多く検出されたことを報告している。
また、Maximoらは、インプラント周囲炎の治療として外科的処置(オープンフラップデブライドメント)を行い、その治療前後における細菌叢の変化を調べている。
その結果、インプラント周囲炎罹患部のプラークには、Red complexが高い割合で検出されること、また治療後は総菌量の減少、またその量に対して、Red complexの割合が減ることが示された。
歯周病により抜歯され、無歯顎となった患者の唾液や舌表面からも歯周病原細菌が検出されることを考えると、細菌学的見地から歯周炎の既往はインプラント周囲疾患のリスクとなるといえる。
ただし、細菌に対するインプラントと天然歯の反応が同じとは言い難い部分がある。
・Leonhardtらは細菌培養法を用いた検査において、インプラント周囲炎部位の55%の部位からS.sppやC.spp.、腸内細菌など、通常、天然歯周囲では検出されず、一般に歯周病との関連が報告されていない細菌が検出されたことを報告している。
さらに、Perssonらはcheckerboard DNA-DNA hybridization法により79菌種を対象としてインプラント周囲炎部位における細菌叢を検索した結果、Red complexのひとつであるT.forsythia等が検出された一方で、歯周病の原因菌とはなじみのない、本来は主に胃に棲息するH.pylori なども検出されたこと、また非外科治療6か月後もこれらの細菌の減少は認められなかったことを報告している。
インプラント周囲炎において、既知の歯周病原細菌以外の微生物種が関与している可能性も考えられ、両疾患における原因細菌種についてはまだ統一した見解が得られていない。
Dr和泉雄一ら も16S rDNA クローンライブラリー法を用いて、20名の被験者を対象とした精密な細菌叢解析を行った。
その結果、Red complexはインプラント周囲炎と歯周炎の両疾患部位から検出されるものの、3菌種をすべて足したとしても細菌叢全体の10%程度の存在量でしかないことが明らかとなった。
また既知の歯周病原細菌に注目した場合、両群ともに検出量が多い菌はF.nucleatumであるという共通点がある一方で、インプラント周囲炎ではPrevotella nigrescensが歯周炎と比較し有意に多く検出されたという相違点が認められた。
これらはインプラント周囲炎の細菌叢を網羅的に解析したことではじめてわかったことである。
一連のDr和泉雄一らの研究から分かったことは、以下のとおりである。
1. インプラント周囲炎と歯周炎では、類似した機能を細菌叢が保有しているため、両疾患では類似した臨床症状を呈する。
しかしながら、病態を進行させる機能を多く担う細菌(interacting core taxa)に違いを認める。
2. interacting core taxaがインプラント周囲炎と周囲炎の原因菌であると推測され、それらの差異が、結果として両疾患の治療に対する反応の違いに影響すると考えられる。
・意外にもインプラント周囲炎と歯周炎の両疾患で共通した細菌種はわずか3種であり、また、ともに既知の歯周病原細菌だけでなく、他の細菌種もその病原性に関与している可能性が示唆された。
(日本歯科医師会雑誌 2017年11月号 )
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インプラント周囲炎罹患部のプラークには、Red complexが高い割合で検出されること。
Red complexのひとつであるT.forsythia等が検出された一方で、歯周病の原因菌とはなじみのない、本来は主に胃に棲息するH.pylori なども検出されたこと。
意外にもインプラント周囲炎と歯周炎の両疾患で共通した細菌種はわずか3種であったこと。
などが明らかになりました。
歯周病とインプラント周囲炎では、それらを引き起こす細菌の多くが異なるために、インプラント周囲炎への効果的な対策が遅れているといえるでしょう。
またインプラント周囲炎患部のプラークには、ピロリ菌が棲息していたことを考えると、インプラント周囲炎になっている人は、そうではない人よりも胃がんになりやすいのかもしれません。

2017年12月10日

hori (15:12)

カテゴリ:インプラント周囲炎

下口唇枝の走行は大きく分けて二つある。

・オトガイ神経の分岐の中で下口唇枝は太い神経が1本で下唇に向かう場合と2本以上で様々な方向から下唇に向かう場合があり、神経損傷でその後の治癒過程に差が出るのはそのためであると思われる。

(日本歯科医師会雑誌 2012年12月号 )

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インプラント埋入手術の偶発症として、神経損傷があります。

その中でも、オトガイ神経の損傷は、下歯槽神経や舌神経の損傷と並び、大きな問題となります。

下口唇枝は、このオトガイ神経の末梢に位置します。

今回の報告で、下口唇枝の神経の走行が、太い神経が1本の場合と、2本以上で様々な方向から下唇に向かう場合があることがわかりました。

この二つのタイプにより、口唇の感覚は何かしらの違いがあるのでしょうか。

また、神経の走行の仕方によって、同じ神経損傷でも、治癒過程が異なるのはもっともな話といえることでしょう。

ある意味、興味深い分野です。

2017年12月 5日

hori (08:48)

カテゴリ:インプラントの偶発症

人はなくなったときに、義歯を入れた方がいいのか?

・人はなくなったときに、義歯を入れた方がいいのか?、入れない方が良いのか?
人は息を引き取った瞬間から筋肉の弛緩が起こるために、重力の影響を受けて皮膚が下垂します。
ご遺体はほとんどの場合、仰殴位に安置されているために、顔の皮膚が背面に向かって引っ張られるように下がっていきます。
そのため、亡くなった方に義歯を入れたままにしていると、義歯床の厚み分だけ口元が盛り上がって見え、見た目の印象が変わっていきます。
特に高齢で栄養状態が悪く、痩せている方だと死後にこのような顔貌の変化が起こりやすく、さらに火葬まで日延べしてしまうと、義歯を入れることでかえって日に日にその面影が失われていくことがあります。
(デンタルハイジーン 2017年11月号 )
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人はなくなったときに、義歯を入れた方がいいのか?、入れない方が良いのか?
正直考えたこともない質問でしたが、義歯の厚み分口元が盛り上がってしまうために、「入れない方が良い」というのがその答えになるようです。
そのような意味で、特に前歯部においては、義歯よりインプラントの方が死後の顔貌の変化が少ないといえるでしょう。

2017年12月 1日

hori (08:53)

カテゴリ:上顎前歯部のインプラントの

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