2017年3月アーカイブ

侵襲性歯周炎の原因菌は、A.a.菌JP2クローン。

・諸外国における侵襲性歯周炎の原因菌は、A.a.菌JP2クローン。
1980年代前半まで、欧米の侵襲性歯周炎患者からは高頻度でA.a.菌が検出されることが報告されました。
A.a.菌が減少すると歯周状態もよくなるとの報告もあったため、 A.a.菌こそが原因菌であるとされたのです。
しかし、「本当に A.a.菌 が原因?」と怪しむ論文も少なからずありました。
その根拠は A.a.菌に感染していない侵襲性歯周炎患者が多くいること、逆に A.a.菌に感染していても歯周組織が健康な人がたくさんいることでした。
さらには、侵襲性歯周炎患者と慢性歯周炎患者との間には、 A.a.菌の検出率は有意な差がないという報告などもあり、 A.a.菌原因説を信じない人もいました。
そんな矢先、1984年に驚きの報告がありました。
A.a.菌は白血球障害性外毒素であるロイコトキシンを分泌し、免疫細胞や歯周組織に障害を与えますが、このロイコトキシンを大量に分泌する A.a.菌が見つかったのです。
この非常に毒性の強い遺伝子型(クローン)の A.a.菌は、限局性侵襲性歯周炎の8歳男児から検出され、 A.a.菌JP2クローンと名づけられました(若年性歯周炎は英語でJuvenile Periodontitis だからJP)。
その後の研究で、JP2クローンの感染者は侵襲性歯周炎を発症している率が明らかに高いこと、また経年的にアタッチメントロスが増加することが報告され、JP2クローンこそが侵襲炎発症の原因菌と考えられました。
(歯科衛生士 2017年1月号 Vol.41 )
・慢性歯周炎は不特定の様々な最近の感染によって発症するが、侵襲性歯周炎はA.a.やP.g.といった特定の細菌と関連があるため、PCR法を用いた細菌検査ではA.a.(+)であれば侵襲性歯周炎とする傾向にある。
確かに現在の侵襲性歯周炎に含まれた以前の分類における若年性歯周炎患者では、高頻度にA.a.に対する血清抗体価が高いとする報告があるが、一方で明らかに広汎型侵襲性歯周炎の病態を示す患者のうち細菌検査でA.a.が認められたものは約35%にしかすぎず、同じく明らかに慢性歯周炎の病変を有する患者のうちA.a.が認められたものは約20%であり、さらにコントロールとして調べた健常者においても約10%でA.aが検出され、3者の間で統計学的有意差は認められなかったという報告もある。
このことは、サンプリングの問題など細菌検査自体が有する薄弱性に問題があったかもしれないが、A.a.が健常者からも検出されていることを考えると、A.a.が認められれば侵襲性歯周炎、認められなければ慢性歯周炎といった単純な鑑別診断はそもそも理にかなわないことになる。
(科学的根拠に基づく歯周病へのアプローチ )
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以前は、侵襲性歯種炎といえば、A.a.菌が関与しているといわれてきました。
ところが、比較的最近では、「A.a.が健常者からも検出されていることを考えると、A.a.が認められれば侵襲性歯周炎、認められなければ慢性歯周炎といった単純な鑑別診断はそもそも理にかなわないことになる。」というようなことが言われるようになり、侵襲性歯周炎の原因論については、歯切れの悪い表現が続いていました。
そんな中、 A.a.菌の中でも、このロイコトキシンを大量に分泌する 菌が発見され、『A.a.菌JP2クローン』と名付けられたようです。
歯科界では、『昨日の常識が今日の非常識』ということが時に生じるので、「歯科医師という職業は、継続した研鑽が必要だなあ。」と今更ながらに感じました。

2017年3月25日

hori (15:52)

カテゴリ:歯周病と免疫

歯周病治療でHbA1cはどの程度改善するのか。

・Engebretsonらによる研究では、2型糖尿病に非外科治療(SRPおよび0.12%クロルヘキシジンの応用)を行ったところ、PPDやBOPの改善は認めたものの、HbA1cは減少しなかったと報告している。
しかし、日本において中等度-重度慢性歯周炎を有する?型糖尿病患者に非外科治療を用いた研究では、高感度CRPレベルが500ng/ml以上の患者(2型糖尿病および中等度-重度慢性歯周炎)において、SRPとミノサイクリンの局所投与により3か月後に有意なHbA1cの改善を認めたと報告している。
両者の研究においては、人種、年齢、体格指数に大きな違いがあります。
米国における体格指数は34-35kgに対して、日本では22-25kgであり、重度歯周炎により上昇する高感度CRPが肥満による炎症で相殺され、差がなくなるとの報告もあります。(単位はすべて一平方メートルあたり)
体格指数が日本人に近い中国で行われた研究では、2型糖尿病患者に外科治療を含めた歯周病治療を行った群では、HbA1c、空腹時血糖、高感度CRPを含めた炎症性因子の統計学的な改善を認めたと報告しています。
以上より、メタアナリシスではHbA1cの改善を認めてはいるものの、論文数が少ないこと、症例数が十分ではないことから、歯周病や糖尿病治療を多岐にわたり比較することは困難です。
現時点で、糖尿病治療の指針のルーティンに入ってくるほどのエビデンスはないように思います。
しかし、歯周病治療によってHbA1cが改善することは事実で、歯周病治療だけで糖尿病が改善するというエビデンスはないものの、糖尿病患者は歯周病を発症しやすいことを考えて、双方からのアプローチを行うことに意義はあると思います。
(歯界展望 2017年1月号 )
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歯周病と糖尿病との関連については、改善するとするエビデンスがある一方で、改善しないというエビデンスもあるようです。
(同じようにエビデンスとはいっても、エビデンスレベルはそれぞれで異なっています。)
そのため、歯周病治療だけで糖尿病が改善するというエビデンスはないものの、歯周病治療によってHbA1cが改善することは事実で、糖尿病患者は歯周病を発症しやすいことを考えて、双方からのアプローチを行うことに意義はあるとのことでした。
他の疾患と歯周病の関連もそうですが、歯周病の治療を行うとどの程度、糖尿病の状態が改善するのか、人種により体質が異なるのであれば、日本人の場合はどの程度改善するのかを、だれの目にも分かる形で報告していただけたらと考えています。

2017年3月20日

hori (09:59)

カテゴリ:インプラントと糖尿病

直接支台歯とインプラントに加わる荷重の垂直・側方成分

・直接支台歯とインプラントに加わる荷重の垂直・側方成分
               直接支台歯に加わる荷重 インプラントに加わる荷重
               側方成分  垂直成分   側方成分  垂直成分 
従来のPD          6.6±0.3   11.1±0.1           
インプラントPD 近心Imp  1.6±0.1    1.3±0.1  14.3±1.2  44.0±0.3
         遠心Imp  6.4±0.1   23.1±0.7  5.4±0.2   51.7±0.4
遠心インプラント支台時に直接支台歯に加わる荷重は、従来の部分床義歯に比較して増加した。
この結果は、インプラントの設置は直接支台歯の負担を軽減するとされてきたこれまでの知見と相反するものである。
遠心インプラント支台の存在は、義歯床下粘膜荷重を軽減させることは明らかであるが、軽減された分の荷重はインプラントと支台歯にて負担することになる。
すなわち、粘膜が主体であった遊離端欠損部の過重負担様式から、ロングスパンの固定性ブリッジの支持様式に近似する様式に移行したものと考えられる。
この場合、支台歯の過重負担の増加は合理的ともいえる。
「遊離端欠損形態の中間欠損化(ケネディ分類?級化)」はインプラントパーシャルデンチャーの力学的利点とされているが、場合によっては直接支台歯への負担増加になりうるため、この点については十分な配慮が必要である。
さらに、インプラント支台による義歯床下粘膜荷重の減少効果は明らかにされたが、遠心インプラント支台時には少なからず粘膜下荷重が測定された(7.4N)。
これは義歯床部のたわみ、あるいは今回使用したボールアタッチメントの可動性が影響したと考えられた。
これから、インプラントパーシャルデンチャーにおいても、アタッチメントの選択とともに、機能時の義歯の動揺・歪みによる粘膜荷重を考慮した調整の必要性が示唆される。
(参考文献)
Matsudate Y, et al. Load distribution on abutment tooth, implant and residual ridge with distal-extension implant-supported removable partial denture. J Prosthodont Res. 2016 ; ahead of print.
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567の遊離端欠損義歯で、5部の義歯床下にインプラントを設置した場合と、7部の義歯床下にインプラントを設置した場合とで、その上に部分床義歯を装着し、咬合力を変えたときに、力の分布が両者で異なっていたという研究報告です。
興味深いのは、7部の義歯床下にインプラントを設置した場合に、直接支台歯の負担が増大する点です。
これまでインプラントは直接支台歯の負担を軽減するとされてきましたが、7部のインプラントオーバーデンチャーでは、ロングスパンの固定性ブリッジの支持様式に移行するとのことです。

2017年3月15日

hori (16:15)

カテゴリ:インプラントオーバーデンチャー

長いポストを掘ることのデメリット

・長いポストを掘ることのデメリットは、根管の側枝の割合を考えます。
根管の中央より歯冠方向に側枝の発生する可能性はおよそ3割に上ります。
つまり、従来のように根管の1/2よりも長く掘ろうという考え方に基づくと、側枝を触る可能性が3割に及び、感染の危険性が増加します。
また、昨今の多くのリサーチが根管の長さによる支台築造の維持に有意差はないと示したことから、根管を長く掘る意味がなくなりました。
以前のように合着に頼っていた時代は長く掘ることで維持する効果もあったと思われます。
今は接着がその維持を補償しています。
・側枝の平均分布
歯頸側:15%、根中央:11%、根尖側:74%
(天然歯審美修復のセオリー図解Q&A )
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私は大学で、根管形成は根長の2/3と習いました。
当時はメタルコアが主流でしたが、虫歯や歯周病による抜歯もまだまだ多い時代だったので、歯根破折による抜歯はあまり目立ってはいませんでした。
そのころからでしょうか、『歯医者には痛いときだけでなく、定期的に通って予防しょう。』という流れがおきました。
その後徐々に、患者さんがメンテナンスに通うような状態になり、虫歯や歯周病による抜歯は確実に減少するようになりました。
ところが、歯根破折による抜歯はメンテナンスで回避できなかったので、歯根破折が急に取りざたされるようになりました。
(目立っていなかっただけの話で、昔からある一定の割合で、歯根破折は生じていた可能性もありますし、日本人の寿命が延びたことも関係していることでしょう。)
その後、メタルコアは歯根破折のリスクが多いため、個人的にはレジンコアを多用するようになりました。
15年以上前になるかと思いますが、ファイバーコアが日本で手に入らない時代もあり、個人輸入で使用していた時期もあります。
根管築造をファイバーコアによるレジンコアで対応した場合、根管を長く掘ると、接着が困難になります。
接着を確実に行おうとすると、根管は必要最低限の長さでよいということになります。
また、今回紹介したように、長い根管形成は、形成時に側枝に触れるリスクが高まるという視点もあります。
勉強を続けていると、『学生時代に大学で学んだ内容は、現在のスタンダードではない。』ということに頻繁に遭遇します。
『歯医者は継続して勉強しなくては務まらない職業だな。』と、今更ながらに感じました。

アクセスホールをセラミックインレーで封鎖。

・スクリュー固定式インプラント上部構造アクセスホール封鎖に対するセラミックインレーの利用
診断用ワックスアップを行い、サージカルガイドを用いてインプラント埋入を行い、3か月の治癒期間を置き、オッセオインテグレーション獲得後、すべての患者にCAD/CAMチタンアバットメントに2ケイ酸リチウムガラスセラミッククラウンを接着性セメントを用いて合着したスクリュー固定式上部構造を装着した。
すべての上部構造を2つの群に振り分けた。
対照群ではコンポジットレジンを、実験群ではセラミックインレーを用いてアクセスホールを封鎖した。
装着された29個のセラミックインレーと29個のコンポジットレジン充填が解析に用いられた。
2年後のフォローアップ時の摩耗量はコンポジット充填では平均228.20±54.68μmであったのに対して、セラミックインレーグループでは65.20±7.24μmであった。
一元配置分散分析において垂直的な摩耗量には有意差があった。
(参考文献)
Urilization of Ceramic Inlays for Sealing Implant Prosthese Screw Access Holes : A CasControl Study. Int J Oral Maxillofac Implants 2016 ; 31(5) : 1142-1149.
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スクリューリテインの欠点には、アクセスホールをCRで封鎖するために、色調がマッチさせにくいことと、しっかりと咬ませたい部位が継時的に咬耗で咬まなくなってしまうことなどの問題点がありました。
今回の報告で、そのアクセスホールをセラミックインレーで封鎖するというアイデアを知ることができました。
また当然かもしれませんが、有意差をもってコンポジット充填よりもセラミックインレーの方が垂直的な摩耗量は少なかったようです。
全てのケースで対応できるわけではありませんが、ケースを選べば、これまでのスクリューリテインの欠点を補うことができる可能性が示唆されました。

2017年3月 5日

hori (15:11)

カテゴリ:スクリューリテインとセメントリテイン

歯科衛生士学校の学生の20%が喫煙。

・2003年の調査では、日本の歯科衛生士学校の学生の20%が喫煙していました。
その背景を探ってみると、母親が喫煙者である場合に5倍以上の割合で喫煙していることがわかり、母から娘へとつながる喫煙の連鎖を断ち切ることの重要性が示唆されました。
(知って得した!歯周治療に活かせるエビデンス )
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個人的には、日本の歯科衛生士学校の学生の20%が喫煙しているという事実に驚きました。
また、母親が喫煙者である場合に5倍以上の割合で喫煙しているということも興味深く感じました。
歯周治療にしても、インプラント治療にしても、喫煙はマイナスの影響が大きいです。
今回の報告で、口腔衛生指導に関して喫煙のデメリットを伝えなければならない歯科衛生士自身が、喫煙をしている人が結構な割合でいることがわかりました。

2017年3月 1日

hori (08:43)

カテゴリ:インプラントと喫煙

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