2016年6月アーカイブ

インプラント上部にジルコニアモノシリッククラウンを選択することの是非。

・高強度のジルコニアフレームにポーセレンを焼成した場合、ポーセレンの破折強度は100MPa程度ですから、二ケイ酸リチウムよりもチッピングしやすい。
通常の食生活では100MPa程度の破折強度を持つ材料が欠ける可能性は低く、クレンチングなどの過剰な力が原因と思われます。
・天然歯のエナメル質の破折強度も100MPa程度で、高齢者の歯を観察すると、多くの歯がエナメルチッピングを起こしています。
歯冠部に1000MPa以上の破折強度をもつジルコニアモノシリックのクラウンが装着され、過剰な力がかかった場合にどこが壊れるのかと想像すると、その使用は慎重に診断した上で採用した方が良いように思えます。
ポーセレンが欠けることは、生体が壊れないためのセイフティーバルブ(安全弁)だともいえるかもしれません。
日本歯科評論 2016年4月号
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インプラント上部のセラミックスが破損するケースは実際の臨床では少なくありません。
インプラントの補綴(被せ)が破損すると、破損以前よりも咬み合わせの面積が小さくなるので、インプラントのフィクスチャーが受け止める負荷は減少します。
いわばセラミックスの破損により、その部分が咬みにくい状況へと変わるので、そのインプラント自体の寿命は長くなるとも考えられます。
一方1000MPa以上の破折強度をもつマテリアルを歯冠部に選択した場合、アバットメント部のネジの緩みや破損なら、トラブルのレベルは低いですが、歯槽骨の喪失やフィクスチャーの破折が惹起されるとその対処は比較的困難なものとなります。
フィクスチャーが破折してインプラントの撤去が余儀なくされるよりは、セラミックスのチッピングの方がまだいいとは思いませんか。

2016年6月30日

hori (14:41)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

やはり傾斜埋入よりも垂直埋入か。

第34回日本顎咬合学会に参加しました。

今回特に印象に残ったはS先生のご講演でした。

S先生はこれまでオールオンフォーをたくさん手掛けてこられたインプラントロジストです。

そのS先生のお話の中で、印象に残ったセンテンスを以下に列挙します。

1. オールオンフォーでは、主に傾斜埋入をするために、メンテナンスがやりにくい。

2. それゆえ垂直埋入をするようになった。

3. 3つのインプラントブリッジで対応するようになった。

4. 抜歯即時埋入は良い方法であるけれど、埋入深度が深めになる場合がある。

5. 深めの埋入なるとメンテナンスがしにくくなるので、GBRを行っている。

私も『傾斜埋入より垂直埋入の方がメンテナンスはしやすいだろう。また左側・前歯・右側のすべてをつなぐのはリスクが高いだろう。』と常々考えていたので、「うん、うん」と頷きながら講演を聴くことができました。

2016年6月25日

hori (09:37)

カテゴリ:オールオンフォー

上顎側切歯の予後不良が多い理由。

・上顎側切歯の特徴
特異形態(盲孔、舌側溝、副根、歯内歯)が出現する。
(クインテッセンス 2016年4月号 )
・舌面窩の上縁より、舌面歯頸隆線と辺縁隆線との境界部を通過する浅い溝をみることがある。
これを舌面歯頚溝(斜切痕)という。
溝が歯頚線を超えて、根面にまで達するものも存在する。
また、この舌面歯頚線の出現頻度は上顎側切歯が最も高い。
(日本人永久歯解剖学 )
・舌面窩最上端が尖頭となり、舌面歯頸隆線の下にもぐるこみ盲孔を形成する。
この盲孔はう蝕の好発部位である。
歯内歯は盲孔との関連があり、盲孔形成の異常とされている。
なお、上顎側切歯での盲孔の出現率は50%以上とされている。
(図説 歯の解剖学 )
・歯内歯とは、歯冠部の象牙質の一部が表層のエナメル質とともに歯髄腔内に深く陥入した歯の形態異常。
歯内歯は、その特殊な構造のために、齲蝕が多い。
(Wikipedia )
・人類の切歯は単根であるが、往々にして二根性の歯牙が出現することがある。
しかしながらこの二根性というのが下顎においてはほとんど等値の唇舌二根に分かれており、また上顎側切歯も大体において唇舌二根に分岐しているものの、その舌側は基底結節に相応した付加的なものが多いのである。
(九州歯科大学雑誌 上顎右側中切歯の唇側近心に副根を有する稀有なる一例 )
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上顎側切歯が上顎中切歯や上顎犬歯よりも予後不良が場合が多いような印象があったため、上顎側切歯の形態学的不利な側面を調べてみました。
その結果、特異形態として、盲孔、舌側溝、副根、歯内歯があることが分かりました。
上顎側切歯に盲孔があれば、歯ブラシが届きにくい形態をしているために、虫歯になりやすいでしょう。
また上顎側切歯に舌側溝があれば、その深さによりますが、その部分の歯周ポケットが深くなる傾向があるので、歯周病で歯を失うリスクは高いと言えるでしょう。
そのような意味では、上下顎の6前歯の中で歯内・歯周病変に最も罹患しやすいのは、この上顎側切歯の可能性があります。
さらに、根管治療が上手くいかないものの中には、副根の出現頻度が稀であるために、この副根の存在を歯科医師が見落としている場合もあることでしょう。
最後に歯内歯についてですが、構造が特殊故に虫歯になりやすいとされています。
上顎側切歯に関する他の文献では、親知らずに次いで退化傾向にあるとありました。
退化傾向にあるということは、萌出してこない場合も他の歯牙よりも高頻度で、円錐歯のような形態が正常な形態で萌出しない場合もあるということになります。
上顎側切歯は中切歯や犬歯よりも歯根表面積が少ない場合が多いですが、それが少ないということは、容易に歯列不正を惹起する可能性も考えられます。
上顎側切歯が形態学的にも不利なだけでなく、他の前歯よりも位置的にも歯磨きがしにくい傾向にあるということです。
具体的に説明をするならば、中切歯と犬歯にはじき出されるように、側切歯が内方に位置偏位を起こしているケースは歯磨きが容易ではないということです。
そうなると、前歯の中でも将来インプラントが必要な状態になる可能性が比較的高い側切歯を守るためにも、歯列矯正治療は有効な場合も多いかと考えられます。

2016年6月20日

hori (14:56)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

加齢による根尖部の変化

・加齢による根尖部の変化
根尖孔は平均3個以上あり、開口が根尖と一致する歯はほとんどない。
前歯部において約80%の根尖孔が根尖から変位しており、とくに側切歯においては90%以上が変位している。
中切歯ならびに犬歯では遠心唇側に、側切歯では遠心舌側に変位していることが多く、これは多くの症例で根尖部根管が湾曲していることを意味している。
根尖性歯周炎で根尖相当歯肉に腫脹や瘻孔が生じる部位は、根尖孔から歯槽骨表面までの距離に加え開口方向の影響も受けている。
すなわち上顎中切歯や犬歯では唇側に発現することが多く、側切歯では口蓋側歯周組織に発現することが多い。
クインテッセンス 2016年4月号 )
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個人的に側切歯は、前歯の中で予後が悪いのではないかと考えていました。
その答えに関係しそうな側切歯の特徴を知りましたのでご紹介します。
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中切歯や犬歯は根尖孔が歯槽骨の厚みの薄い唇側に湾曲しているのに対して、側切歯では歯槽骨の厚みの厚い口蓋側に湾曲しています。
そうなると、根管に問題が生じたときに、フィステルができることで内圧が下がりやすいのは、中切歯と犬歯で、治療をしない限り内圧が下がりにくいには側切歯ということになります。
また、フィステルが認められる歯に歯根端切除術を行う場合には、中切歯や犬歯では問題が生じている部位には、歯肉を剥離すれば骨欠損が認められるので治療が容易ですが、側切歯では口蓋側からアプローチしようとすると、歯肉を剥離するのが困難でしょうし、通法通り唇側からアプローチする場合には、骨欠損が見当たらないという難しさが出てくる可能性があります。
そのように考えると、側切歯の根尖病巣が大きくなり、その部位にインプラント治療をしようとした場合には、中切歯や犬歯よりも難易度が高まる可能性があります。
というのも、中切歯や犬歯よりも、口蓋側の歯槽骨が破壊されている場合が多いために、抜歯即時インプラントはより低位に埋入する必要があるからです。

2016年6月15日

hori (11:01)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

気象変化で慢性歯周炎が急性化。

・天候が歯や口の健康に影響している可能性がある。
岡山大学大学院医歯薬総合研究科予防歯科学分野の森田学教授、竹内倫子助教らの研究グループが、慢性歯周炎が急性化するのは気象変化後1-3日後であることを発表した。
同研究グループは、岡山大学病院予防歯科を受診している「安定期にある慢性歯周炎患者」延べ2万人を調査。
慢性歯周炎における急性期の発生と気象状態との関連を分析した。
慢性歯周炎の急性期症状を発症した症例(発症率1.87%)のうち、発症要因が歯科関連とは考えにくいケースに注目。
「気圧低下の毎時変化が大きい」、「気温上昇の毎時変化が大きい」といった気象変化があった日の1-3日後に急性期症状を発生しやすいことを突き止めた。
慢性歯周炎は歯周病原因菌によっておこる炎症で、何らかの原因で急性化すると歯の周囲の組織破壊が急速に進む。
気象変化が原因となるメカニズムは不明だが、気圧や気温の変化がホルモン分泌や循環器系に影響し、慢性歯周炎の急性期の発生に関与したと考えられるとのことだ。
Dentalism SPRING 2016 NO.23
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気圧が大きく変化する梅雨時には、口臭が気になる人が増加するような印象が個人的にはありました。
気圧の変化は自律神経に影響を与えるので、唾液の出方が変化したり、サラサラ唾液がネバネバ唾液に変化する可能性があります。
また、気温や気圧の変化自体が体にとっては、ストレスですから、それに関連して咬み締めの程度や頻度が増大する可能性も考えられます。
歯周病菌の増殖を抑える唾液の性状が変化し、量も減少し、それと同時に歯周組織には過大な咬合力がかかる、これこそが気象変化の数日後に慢性歯周炎が急性化することと関連があると考えています。
こうして考えると、インプラント周囲炎も唾液の性状や量、咬合力に影響を受けるわけですから、天然歯と同様に気象変化の影響を受ける可能性が推察されます。

2016年6月10日

hori (17:05)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

マウスピース装着者は18%

・パラファンクションへの対応、マウスピースに関するデータは、患者771名中マウスピース装着患者は133名(18%)であった。
このマウスピース使用患者の133名について調べた場合、インプラントの失敗(骨吸収を含む)を認めた患者は133名中6名(4.5%)、また失敗を認めない患者は133名中127名(95.5%)となり、マウスピースの未使用患者638名に関してはインプラントの失敗を認めた患者は59名(9.2%)、失敗を認めない患者は579名(90.8%)であった。
ファイナルレストレーション装着後の口腔周囲筋ケア vol.2 )
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あくまでこのグループのデータかと思いますが、パラファンクションへの対応するためのマウスピースの着用率が18%という結果でした。
マウスピース着用率がそれほど高いとは思いませんが、着用してもしなくても、思ったほどインプラントの失敗には影響しないという印象を受けました。
おそらく力の要素が大きく関与して天然歯を失ったタイプの方に対しては、私たちはマウスピースを強く推奨するべきだし、一方それほど力の関与が大きくないと判断されるタイプの方には、セラミックスの破損が平均レベル以上と術者が判断した時点で、患者さんにマウスピース着用を推奨するというのもいいかと思います。
ただ近年、現在当院で多く使用しているようなメタルセラミックスよりも硬いマテリアルが登場し、インプラントの上部構造に使用されているケースも少なくないと考えられます。
そのような場合には、セラミックスのチッピングはないけれど、骨吸収が生じたり、アバットメントの破折等が引き起こされていると推測されます。
過剰な力でインプラントが破壊されるのなら、最も再治療が容易な部分、すなわちインプラント上部構造が選択的に破壊されればいいと思います。
骨吸収が惹起されるよりははるかによいし、ある意味咬合面が小さくなるために、チッピングした後には受けとめる咬合力は小さくなるからです。

2016年6月 5日

hori (16:43)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

対合歯の種類によって、補綴物のマテリアルは変える方が良いかもしれない。

729本のインプラントに998のメタルセラッミクス(単冠390、ブリッジ94)を装着したところ、ブラキシズムのあるものはないものと比較して有意に破折した。
また対合歯が天然歯の場合と比較して、インプラントの場合に有意に破折が生じ、天然歯と比較して、約7倍破折のリスクがあった。
(参考文献)
Retrospective analysis of porcelain failures of metal ceramic crowns and fixed partial dentures supported by 729 implants in 152 patients : patient-specific and implant-specific predictors of ceramic failure. Kinsel RP, Lin D. J Prosthet Dent 2009 ; 101(6) : 388-394.
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メタルセラミックスといっても、咬み合わせの面がメタルのタイプのものと、咬み合わせの面がセラミックスのタイプのものがあります。
前者がパーシャルベイク、後者がフルベイクといいます。
パーシャルベイクのメタルセラミックスとフルベイクのメタルセラミックスが咬みあった場合、破損の多くはパーシャルベイクのメタルセラミックスです。
そうなると、インプラント対インプラントの咬み合わせで考えるのなら、上下ともにパーシャルベイクのメタルセラミックスを選択すれば破損の頻度や程度は減らせる可能性があるかと思います。
しかしながら、下顎臼歯部でパーシャルベイクのセラミックスを選択してしまうと、お口を開いたときにメタルが見えてしまうという欠点があります。
そのため、セラミックスを築盛しないフルジルコニアのようなマテリアルを選択することも今後は考えられると思います。

2016年6月 1日

hori (15:20)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

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