2017年6月アーカイブ

セメント固定とスクリュー固定で、インプラント周囲炎の発症率には差がない。

・セメント残留リスクがあるはずのセメント固定と、セメント残留がないスクリュー固定で、インプラント周囲炎の発症率には差がない。

セメント固定で残留セメントなし(56で43.4%)→健康70%

                       インプラント周囲疾患30%

セメント固定で残留セメントあり(73で56.6%)→健康15%

                       インプラント周囲疾患85%

残留セメントありで歯周病罹患歴なし34→健康11

                    インプラント周囲粘膜炎20

                    初期のインプラント周囲炎3

残留セメントありで歯周病罹患歴あり39→初期のインプラント周囲炎4

                    インプラント周囲炎35   

(参考文献)

Linkevicius T, Puisys A, Vindasiute E, Linkeviciene L, Apse P, Does residual cement aroud implant-supported restorations cause periimplant disease? A retrospective case analysis. Clin Oral Implants Res 2013; 24(11):1179-1184.

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セメント固定で残留セメントがないのにインプラント周囲疾患になる患者さんと、セメント固定で残留セメントがあっても健康な患者さんが存在するために、セメント残留リスクがあるはずのセメント固定と、セメント残留がないスクリュー固定で、インプラント周囲炎の発症率には差がないという結果になったようです。

ただ、歯周病罹患歴がある患者さんに残留セメントのあるセメント固定をしてしまうと、かなりの確率でインプラント周囲炎になるので、侵襲性歯周炎の患者さんにインプラント治療を行う際には、より注意が必要となります。

2017年6月30日

hori (15:29)

カテゴリ:スクリューリテインとセメントリテイン

広汎性侵襲性歯周炎に対するインプラント治療のリスク

・広汎性侵襲性歯周炎に対するインプラント治療の生存率は、慢性歯周炎および歯周炎ではない患者と同等であったが、失敗率は広汎性侵襲性歯周炎の患者が慢性歯周炎および歯周炎ではない患者に比べて約5倍もリスクが高く、インプラント周囲粘膜炎の罹患率においては約3倍、インプラント周囲炎の罹患率は約14倍もリスクが高いという結果であった。

(参考文献)

Swierkot K, Lottholz P, Flores-de-Jacoby L, Mengel R. Mucositis, peri-implantitis, implant success, and survival of implants in patients with treated generalized aggressive periodontitis: 3-to 16-year year results of aprospective long-term cohort study. J Periodontol 2012;83(10):1213-1225.

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侵襲性歯周炎の患者さんにインプラント治療を行う際には、慢性歯周炎および歯周炎ではない患者さんと比べて、一度インテグレーションしてしまえば、生存率は変わらないものの、再埋入が必要となる可能性が5倍高く、インプラント周囲炎にも14倍高いことを予め説明する方が良いかと思います。

また、歯周性歯周炎が原因でインプラント治療を受ける方とそうではない方とで、メンテナンスの内容や期間、場合によっては埋入費用も変える必要があるかと思います。

2017年6月25日

hori (11:03)

カテゴリ:インプラント周囲炎

副オトガイ孔

オトガイ孔周辺に位置し、下顎管と連続し、かつオトガイ孔よりも小さい副孔であり、その中には神経のみや血管のみの場合もあればどちらも含まれる場合もある。
2.0-14.3%の下顎骨に存在する。
その好発部位は報告によってさまざまであり、一定ではない。
前方よりも後方に多く見られるとする報告が多いが、大きな副オトガイ孔は前上方に多いとする報告がある。
オトガイ孔からやや離れた位置での大きな副オトガイ孔には大きな動脈が含まれている場合もある。
また、CBCTの専用viewerによるsurface renderingだけでは小さな孔が観察されないとする報告もあるため、3D再構築画像だけでなく、読影の最初の段階で必ず各スライスで副孔の存在を確認しなければならない。
(臨床解剖学に基づいたComprehensive Dental Surgery )
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インプラント治療の前にCTによる三次元的な画像による診査・診断は今や必須のものとなっています。
下歯槽管の三次元的な位置の把握は当然必要ですが、この副オトガイ孔もあるものとして、画像読影する必要があります。
『副オトガイ孔は、2.0-14.3%の下顎骨に存在する』とのことですが、個人的には思ったよりもその割合は多いと感じました。

2017年6月20日

hori (11:35)

カテゴリ:インプラントの偶発症

再感染やその後の治療失敗の原因としてのコロナルリーケージの印象は薄れてきた。

・昨今の間接的証明によると、再感染やその後の治療失敗の原因としてのコロナルリーケージの印象は薄れてきたようである。
その根拠は以下の2つの事実に基づいている。
1. 治療に失敗した歯の生検標本では通常、細菌は根管の根尖側1/3に認められるが、根管全域に沿って存在することはあまりない。
コロナルリーケージが治療失敗の主な原因であれば、細菌は歯冠から根尖まで根管の全域にわたって定着しているはずである。
2. 生活歯髄の治療の成功率は、感染により壊死した症例や再治療例と比較すると、有意に高い。
コロナルリーケージが治療後の疾患の最重要原因であれば、生活歯や壊死した歯の治療失敗率のほか、再治療症例の治療失敗率も同等となるはずであるが、実際は異なる。
(リクッチのエンドドントロジー )
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これまでコロナルリーケージにより発生する充填済み根管の再感染は、歯内療法失敗の重要な原因となるとされてきましたが、考えられてきたほどその頻度は高くないようです。

急性根尖膿瘍での抗生物質は不要。

・全身性疾患のない健常な患者が疼痛と腫脹を伴う急性根尖膿瘍を生じた場合、抗生物質の全身投与は行わない。
排膿を切開で行うか、または根管を通して行われるすべての処置においても抗生物質による治療は不必要なだけでなく禁忌でもある。
抗生物質の全身投与は、全身の問題や、発熱、不快感、およびリンパ節腫脹などの全身性病変を伴うような重度の蜂窩織炎を発症した根尖性膿瘍の場合にのみ妥当と考えられる。
同様に、壊死歯髄を伴う歯の根管拡大後、術後の悪化は単に予防する目的で抗生物質を無差別に投与することは不適切と考えられる。
例外として、医学的障害を有する患者の抗生物質による予防は当然考慮され、日常の歯内療法においても、菌血症を引き起こす可能性がある処置においても実施されなければならない。
(リクッチのエンドドントロジー )
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根尖膿瘍等の治療後に薬を欲しがる患者さんは少なくないですが、私も個人的には抗生物質は必要がないケースが多いと感じていました。
まただいぶ前になりますが、急性根尖膿瘍の治療後に蜂窩織炎を惹起したケースを経験しました。
根管治療後に顔面と頸部の腫脹が著しいために、大学病院の口腔外科に患者さんが入院するという事態になったのです。
そのような経験から、患者さんの体調があまりに優れない場合は、積極的な根管治療は控え、投薬のみにした方がよい場合もあると考えるようにもなりました。
他の資料からも、日本は諸外国と比較しても、医科・歯科に関わらず投薬の種類や量が格段に多いようです。
Drリクッチの主張のように、必要のない投薬は控えるべきだと私も考えています。

レジンタグがあるにも関わらず、細菌が象牙細管内に侵入。

・ハイブリットレイヤーとレジンタグの形成は接着を保障するものだと言われてきた。
しかし、一般的に接着力は経年的に劣化するものである。
この微細構造の足場の最大の弱点は、ハイブリットレイヤー上面あるいは下面のようである。
しかしながら、この部位での接着が失敗しても、レジンタグと象牙細管の強い結合により、十分な封鎖性が得られていると考える人もいる。
つまり、レジンと象牙質の接着の強さに加えて、もっとも重要な機能は、レジンタグが細管開口部を封鎖し、透過性と歯髄の炎症を最低限に抑えるというものである。
・レジンと象牙質の接着の強さに加えて、もっとも重要な機能は、レジンタグが細管開口部を封鎖し、透過性と歯髄の炎症を最低限に抑えるというものである。
光学顕微鏡による観察から得られたことは、これらの提示を否定するものであった。
ハイブリットレイヤーとレジンタグはその存在にも関わらず、象牙細管への細菌侵入を予防することができていないことを示している。
薄いハイブリットレイヤーと、その上に形成されているボンディングレジン由来の非結晶の上に、細菌バイオフィルムの本質的な問題は、ハイブリットレイヤー/コンポジットレジンの界面にあるように思われる。
連続切片の分析から、同一窩洞内でもハイブリットレイヤーが認められる部位もあれば、完全にハイブリットレイヤーの形成が存在しない部位も認められた。
このことから、ハイブリットレイヤーの形成がいかに予測不可能であるかが分かる。
結論として、ハイブリットレイヤーの形成は術者によってコントロール不可能な要因に依存しており、どの症例においても安定した修復が達成できるとは限らないと思われる。
・Ricucciらは裏装材を塗布した後にコンポジットレジンを充填した場合の歯髄の組織学的、細菌学的状態に関するin vivoの研究を行った。
一つの症例では水酸化カルシウム含有裏装材を塗布した後、グラスアイオノマーセメントを充填した。
二つ目の症例には、象牙質に直接グラスアイオノマーセメントを充填した。
もう一つの症例では、リン酸亜鉛セメントを充填した。
標本数は限られているものの、グラスアイオノマーセメントを象牙質へ塗布することによって、細菌漏洩による細菌コロニー形成が阻止されると彼らは結論づけた。
対象歯は臨床症状を呈することなく、1年10か月後抜歯された。
臨床的には修復の状態は極めて良好であった。
しかし、組織学検査ではマージン部に多量の細菌コロニーの形成が認められ、細菌コロニーは象牙細管先端部に顕著であった。
しかしながら、細菌は歯髄側の窩壁にはまったく存在していなかったし、咬合面側の窩壁と歯頸部側の窩壁でもほとんど存在しなかった。
これらの部位はグラスアイオノマーセメントによって覆われていたことから、セメントが細菌の侵入に対して、予防的に働くことをこの所見は示唆している。
(リクッチのエンドドントロジ― )
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レジン充填に関しては、「レジンタグが細管開口部を封鎖し、透過性と歯髄の炎症を最低限に抑える。」と解釈している歯科医師は多いかと思います。
今回、Ricucciらの報告により、経年的に接着力は低下し、レジンタグがあるにも関わらず、細菌が象牙細管内に侵入することが明らかになりました。
(今回提示された窩洞は、全く健全で実験研究に供された歯に対して施されたものなので、細菌が窩洞内に元々いたのではなく、経年的に細菌が象牙細管内に侵入したものと考えられます。)
また、グラスアイオノマーセメントで裏装をしたうえでコンポジット充填をしたところ、歯髄側の窩壁には全く細菌が存在していなかったことも明らかになりました。
一世代上の歯科医師から、レジン充填について、以下のような話を聞いたことがあります。
『かつてのレジンには歯髄為害性があるために、レジン充填で歯髄炎が生じた。』とか、『裏装をしてからレジン充填を行うと、今ほど接着力が良くないために脱離した。』 といった発言です。
これは私が歯科医師になるよりも前のレジン充填に対する評価ですが、接着の技術は日進月歩で進化しているため、現在はレジンに歯髄為害性はほぼなくなり、接着力は右肩上がりに向上しているものと考えられます。
一方、現在は自由診療のレジン充填、ダイレクトボンディングも流行っていると聞きますが、歯髄側の窩底にわざわざ裏装材を敷いている歯科医師はあまり聞いたことがありません。
裏装を行った上でダイレクトボンディングを行うと、色調を再現しにくくなる可能性があります。
また、コンポジットレジンの象牙質へ接着はあまり良好なものではないとは聞きますが、グラスアイオノマーセメントよりはまだ接着するのではないでしょうか。
いずれの場合も大方、エナメル質に対して接着しているのであれば、接着力はあまり変わらないかもしれません。
個人的には、接着はそれほど自分の得意分野というわけではないので、継続して研鑽を続けていきたいと考えています。

末梢によって、咀嚼型を変えられるかはいまだ不明。

・骨格筋と筋力型と並んで、力のリスクを診断する際に、Dr筒井らは咀嚼型の違いに注目している。
咀嚼型は、基本的には脳幹に記憶されていると考えられており、実際、容易に変えることができないと思われる。
しかし、末梢(歯の接触関係の感覚入力)を変えることによって長期間かかって咀嚼型が変わるかどうかは不明である。
個体差の重要な因子と考えられる。
咀嚼型の違いによって、同じ咬合力でも、咬耗や歯折、咬合性外傷、顎関節の異常など病変の発現部位、病態の違いが生まれる。
前頭面投影した切歯点の軌跡が咀嚼側だけで完結する咀嚼型をチョッピング型と呼ぶ。
チョッピング型は、歯に加わる側方力が小さく、歯は咬耗しにくく、顎位は安定しやすい。
白人に比較的多い咀嚼型であるために、標準的な型と考えられ、東アジア人においても咬合面を修正してチョッピング型を描くような咬合接触にすることを推奨する考え方があるが、咬合面の変更によってチューイングを垂直化しようとすると最大咬頭嵌合位に至る前後の干渉が生じやすい。
生来チョッピング型の人は東アジア人にはきわめて少ないものと思われる。
東アジア人に多いグライディング型は、切歯点の前頭面に投影した軌跡のかたちから斜め卵形型と逆三角形型に分けられる。
斜め卵形型の咀嚼型は、咬耗によって上下の咬合面がはまり込む傾向にあり、歯周組織に揺さぶりの力を与え、逆三角形型の咀嚼型では、咬合面の平坦化が進み咬合が不安定になる。
(包括歯科臨床2  顎口腔機能の診断と回復 )
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私が大学院にいたころに、咀嚼型は脳幹に記憶(パターン・ジェネレーター)されていることはすでに明らかになっていました。
しかしながら、それとは逆に、末梢を変えることにより、咀嚼型が変わるかどうかはまだ明らかになっていないことが分かりました。
まだまだ分からないことはたくさんあるのだなと感じました。
また、東アジア人にはグライディング型が多く、斜卵型の咀嚼型と逆三角形型の咀嚼型があること、前者は歯周病が進みやすく、後者は咬合が不安定になることが分かりました。
こうして考えると、インプラント治療を行うにあたり、患者さんの元々もっている咀嚼型に合わせた咬合面形態を製作する必要があります。
ヒトは、このように咬むと痛みがあるというような場合に、その方向への咀嚼運動を回避するようなことをオートマティックで行います。
また、天然歯なら痛みが惹起されそうな咬み方を、インプラント治療を行った部位で行っても、痛みが出ない場合も少なくありません。
天然歯とインプラントが共存する口腔内で、いかにうまく共調した状態を維持するのか、歯科学のより深い理解が必要だと今さながらに感じました。

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