2016年10月アーカイブ

骨質、インプラント径、表面性状が長期的なインプラント周囲骨吸収に及ぼす影響

・骨質、インプラント径、表面性状が長期的なインプラント周囲骨吸収に及ぼす影響
(目的)
インプラントの短・長期的な残存率および成功率に関係する因子の一つとしてインプラント周囲の辺縁骨吸収(MBL)が挙げられる。
本研究の目的は、長期的な観察において臨床的所見およびインプラントに関連する因子がMBLに及ぼす影響を検証することである。
(材料および方法)
172名の患者に埋入された558本のインプラントにおいて、MBLと臨床因子、インプラント関連因子、補綴設計関連因子との関係を調べた。
MBLはデジタルX線写真におけるスレッドの様相を基準として、コンピュータソフトウェアを用いて解析した。
(結果)
線形混合モデルによる解析により、以下の項目において有意差が認められた。
:タイプ4の骨における平均MBL(辺縁骨吸収)(0.047ミリ/年)は、他の骨質に比べると、有意に小さな値を示した(タイプ3の骨:0.086ミリ/年、タイプ2の骨:0.112ミリ/年、タイプ1の骨:0.138ミリ/年)。
インプラントの直径が1ミリ増すごとに平均MBLは0.033ミリ/年で大きくなった。
表面性状がスムースなインプラント(0.103ミリ/年)は、ラフなもの(0.122ミリ/年)と比べて小さなMBLを示した。
また、インプラント支持型全部床義歯以外の補綴設計においてMBLが認められた。
(結論)
本研究は後ろ向き研究であるため、限界が認められるものの、タイプ4の骨、直径の小さなインプラント、スムースなインプラント表面性状、インプラント支持型全部床義歯において小さな平均MBLが認められた。
(参考文献)
Relationship between long-term marginal bone loss and bone quality, implant width, and surface Lbanez C, Catena A, Galindo-Moreno P, Noguerol B, Magan-Fernadez A, Mesa F. Int J Oral Maxillofac Implants 2016 ; 31(2) : 398-405.
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上顎大臼歯部などのタイプ4などの骨質では、直径が大きくラフな表面性状のインプラント体を選択し埋入すると、インプラントの初期固定を得る可能性が高まります。
インプラント周囲の組織に動きがない方が、インプラント周囲に骨ができやすいので、初期固定を重視してきた歯科医師も多いかと思います。
しかしながら今回の文献により、骨が圧迫されるような力がかかるインプラント埋入(高トルク埋入)を行う程、MBLが有意な差をもって生じることが明らかになりました。
高トルクでインプラント埋入を行うと、インプラントを埋入したその日から咬めるというメリットはありますが、MBLが大きくなるのではやはり良いとは言えません。
患者さんのQOLを少しばかり向上させることよりも、長期的に考えて一番良い方法を選びたいものです。

2016年10月30日

hori (10:55)

カテゴリ:オールオンフォー

プロバイオティクスで歯周病予防?!

・齲蝕罹患歴のない13名の唾液から乳酸菌株を42菌株分離し、まず、歯周病菌であるPgに対してスクリーニング検査を行い、さらにミュータンス菌株、カンジタ菌にも抗菌性を示す菌株のピックアップを行った。
16sリボゾーマルRNAのシークエンスを行った結果、この3菌株は、Lactobacillus rhamunosus, L. casei, L. paracaseiに分類された。
このうちL.rhamunosusに分類されたL8020株を用いてヨーグルトを作成し、ヒト試験を行った。
ヒト試験は、学生ボランティア50名が、毎日お昼休みにヨーグルトを1個、2週間食べ続けるというもので、「新しい試作ヨーグルト」を食べたというグループでは、移植菌の口腔内保菌を80%以上、4種類の歯周病菌についても40-90%、有意に減少させる効果があった。
DNAマイクロアレイでの検討により、 L.rhamunosus L 8020株の抗菌性は、ヒト由来の塩基性抗菌ペプチドに類似した塩基性のバクテリオシンKog1、Kog2によると考えられた。
このうち、Kog1について詳細な検討を行っているが、Kog1は48個のアミノ酸で構成され、22-44番目のアミノ酸のところでα-へリックス構造をとり、この部分が抗菌性に関与していることを示唆するデータを得ている。
また、Kog1を菌に作用させた場合、3分以内に菌体に集積し、5分で菌を破壊することを明らかにしている。
・われわれは、Kog1がLPSを不活性化することで、歯肉細胞やマクロファージからの炎症性サイトカインの産生を抑制することを明らかにしている。
Kog1自体は L.rhamunosusKO3株の培養上清に豊富に含まれることから、プロバイオティクスの常在菌層へのアプローチによる齲蝕・歯周病のリスクの軽減に加えて、LPSを不活性化することによって歯周病による全身疾患の増悪の抑制というプラスαの効果を期待している。
(日本歯科評論 2016年9月号 )
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以前書籍で紹介した文献が、雑誌でも紹介されたようです。
L.rhamunosus L 8020株の抗菌性により、S mutans P gingivalis P intermedia T forsythia F species が有意差をもって減少したとの報告です。
非常に興味深い研究ですが、これらの細菌の数が減少したとしても、やはり虫歯や歯周病はなくならないのではと個人的には考えています。
今後の研究報告に期待したいところです。

2016年10月25日

hori (17:23)

カテゴリ:歯周病の悩み

強度に問題のあるCAD/CAM冠用材料がある。

・特定保健医療材料におけるCAD/CAM冠用材料
物性の面からは、定義通知をクリアしているレジンブロックが特定保健医療材料のCAD/CAM冠用材料のカテゴリーで承認され、曲げ強さは200MPa前後である。
しかし、Lauvahutanonらは、複数のCAD/CAM冠用レジンブロックに対して、曲げ強さ、曲げ弾性係数、ビッカース硬度で測定し、その結果、得られた測定値が材料間で統計学的に有意な差があるブロックがあったことを報告していている。
したがって、同じカテゴリー内の保険医療材料であっても物性に違いのある製品があることを理解しておく必要がある。
定義通知には、組成と製法についての記述はあるが、物性に対する評価はされていない。
現時点でISO規格、JIS規格ともにCAD/CAM用レジンブロックの規定はない。
したがって、各メーカーが示しているデータは、統一された試験方法で行われていない可能性があり、単純にデータを比較することが困難である。
製品の選択に際して、公平なデータがないことは問題である。
今後、それらのデータが示されるとともに、臨床研究による報告が望まれる。
(オールセラミック レストレーション )
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複数のCAD/CAM冠用レジンブロックの様々な強度を測定した結果、材料間で統計学的に有意な差があるブロックがあったことが明らかになりました。
また、各メーカーが示しているデータは、統一された試験方法で行われていない可能性があり、単純にデータを比較することが困難であることもわかりました。
もしも自院で、不幸にも他メーカーよりも有意な差を持って、強度的に問題のあるCAD/CAM冠用ブロックを使用していたのなら、そので治療された患者さんは大変な迷惑を被ることになります。
早急な対処が必要となるものと考えられます。
これも"最新が最善とは限らない"一例であるといえるでしょう。

2016年10月20日

hori (16:20)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

上下正中が一致しない場合は、顎関節異常が起こりやすい。

・上下正中が一致しなければ、どちらかの犬歯が遠心型となってしまい、臼歯部が1歯対1歯咬合となり、同側の顎関節には異常が起こりやすい運動経路になってしまう。

(子どもたちを健全歯列に導くためのコツ )

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上顎正中と下顎正中が一致しない場合を考えてみましょう。

例えば上顎正中に対して、下顎正中が右側に偏位している場合、右側臼歯部は1歯対1歯咬合になる可能性が高まります。

右側臼歯部が1歯対1歯咬合になると、右側だけ咬耗が顕著な状態となる場合があります。

また、上下の犬歯の咬み合わせも1歯対1歯咬合であれば、右上小臼歯の近心と右下犬歯の遠心が近接する方向で、右顎関節を後方に引くような動きをするケースが多いように感じます。

程度によっては、顎関節症状が出現する場合もあることでしょう。

やはり、左右ともに1歯対2歯咬合の方が安心できると考えられます。

ただ、顎骨が生まれながらにして、左右非対称な患者さんも少なくありません。

このような方に、顎骨の幅の範囲で歯牙を移動しても、片側が1歯対1歯咬合、片側が臼歯部が1歯対2歯咬合となる場合も多いです。

でもだからといって、両側を1歯対2歯咬合にするために、4本の小臼歯を抜歯するいわゆる"抜歯矯正"は、医学的には良くないと考えています。

歯列のアーチを小さくすると、歯列矯正後に呼吸をはじめとして、体調が悪くなる場合が少なくないからです。

一方、顎骨が生まれながらに左右非対称な方にインプラント治療を行う場合、歯列矯正のように顎骨の幅の範囲での傾斜移動を行うわけではないので、インプラントの埋入方向を工夫することで咬み合わせを左右対称にすることは可能であると考えています。

そのような意味では、顎骨の対称性が著しく悪い方の場合は、インプラント治療は有効な方法であると言えます。

2016年10月15日

hori (15:17)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

ヘビークレンチングではBコンタクトで占められる。

・ヘビークレンチングではライトクレンチングに比べてBコンタクトで占められることが判っている。
また、健常有歯顎者で咬合接触と咀嚼能率との関係を調べたところ、ライトクレンチングにおけるBコンタクトが咀嚼能率と有意な関係にあることを見出した。
インプラント症例においても、咬合接触はBコンタクトを主に与えるべきであり、Bコンタクトの咬合接触面積が咀嚼効率の向上のために重要であろう。
また平衡側の咬頭干渉を防止するために、Bコンタクトでの咬合接触は有利である。
更に、歯根膜の存在を考慮すると、ヘビークレンチングではインプラント上部構造が咬合接触し、ライトクレンチングでは非接触となるように調整されるのが望ましいと考えられる。
(日本口腔インプラント学会誌 vol.29 No.2 2016.6 )
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ライトクレンチングでは、比較した場合に筋肉位に近い場所でのクレンチングかと思います。
一方、ヘビークレンチングでは、顎偏位を伴いながら、最大接触面積で咬み合う位置でのクレンチングかと思います。
またその際に、Bコンタクトが接触する部位が増大するように、顎位を変化させるものと推測しています。
もしそうならば、パワーゾーンに位置する第二小臼歯や第一大臼歯では、最初から、Bコンタクトの咬合接触を与えるようにした方が良いかもしれません。
顎位の変化はない方が良いわけですから。
インプラント補綴はフィクスチャーよりも近遠心的・頬舌的にカンチレバーな形態となるので、インプラントの埋入位置によっては、Bコンタクトを与えたいけれど、破損を恐れて咬合接触させないというケースは出てくると思います。
そうなると、やはり、Bコンタクトを与えるために適切なインプラントの埋入位置という視点も大切になってくることでしょう。

2016年10月10日

hori (14:38)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

最新ファイルシステム ReciprocとBioRaCeの比較

・楕円形根管に反復回転運動システム (Reciproc)と、回転運動システム(BioRaCe)のNi-Ti製ファイルを使用した根管拡大形成のエックス線マイクロCTによる評価
(結果)
術前根管の体積は、すべての測定部位で統計学的有意差は認められなかった。
拡大形成後ではすべての計側部位で根管体積の増加を認め、Reciproc群の根管体積の増加量はBioRaCe群と比較して有意に高かった。
一方、体積増加率も Reciproc群は、 BioRaCe群と比較して根尖側1/3で有意に高かった。
拡大形成後のファイル非接触面積と非接触面積率は、根管全体、歯冠側1/3および中央1/3で有意に Reciproc群は BioRaCe群より高かったが、根尖側1/3では有意に低かった。
(結論)
楕円形根管をシングルファイルシステムのReciprocおよびマルチプルファイルシステムのBioRaCeで根管拡大形成した場合、ともに根管全体を完全に切削することは困難であった。
Reciprocは、BioRaCeと比較して、根尖側1/3での拡大形成能は有意に高く、ファイルの非接触面積も有意に低かったが、根管全体、歯冠側1/3および中央部1/3でのファイルの非接触面積は有意に高かった。
これは Reciprocのもつ高い切削効率とファイル先端部のテーパーの違いに起因するものと考えられる。
(参考文献)
Busquim S, Cunha R.S, Freire L, Gavini G, Machado M.E, Santos M. A micro-computed tomography evaluation of long-oval canal preparation using reciprocating or rotary systems. Int Endod J 2015 ; 48(10) :1001-1006.
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最新のファイルシステムを使用しても、根管の多くが楕円形態をしている以上、根管全体を切削することはできないことが明らかになりました。
これはすなわち、根管拡大を確実にはできない以上、化学的根管洗浄の重要性がますます高まることになります。
また、『Reciproc群の根管体積の増加量・体積増加率はBioRaCe群と比較して有意に高かった。』、『拡大形成後のファイル非接触面積と非接触面積率は、根管全体、歯冠側1/3および中央1/3で有意に Reciproc群は BioRaCe群より高かった。』ことより、Reciproc群は根管壁をより多く切削するけれど、ファイルが接触していない部分はBioRaCe群よりも多いということが判ります。
さらに、『拡大形成後のファイル非接触面積と非接触面積率は、 根尖側1/3ではReciproc群は BioRaCe群より有意に低かった。』ことより、根尖側1/3ではReciproc群は比較的くまなく根管壁を切削しているということになります。
Reciprocを販売するメーカーは、『根尖1/3付近をしっかり根管拡大していれば良い。』と考えていると推測されますが、根管の体積の増加量は大きいのに、拡大後に根管壁とファイルが接触していない面積は大きいのでは、無駄により多くの根管壁を切削しているのは、Reciprocではなかろうかと考えてしまいます。
そしてもう一つは、根管上部と根尖近くでは、バクテリアの数は根管上部の方が多いと考えられますから、より吟味して拡大するべき部位は根尖付近ではないといえます。
また、根尖付近を拡大しすぎることで、根管充填時のオーバーフィリングのリスクも増大することでしょう。
こうして考えてみると、やはりReciprocは聞いていたほど良くはない様な気がしてきます。

昨今、インプラント治療で骨火傷がクローズドアップされつつある理由

・インプラントの埋入早期の併発症の一つとして、埋入窩を形成する際の摩擦熱による骨火傷が挙げられる。
骨火傷は時として骨壊死を引き起こし、オッセオインテグレーションに悪影響を及ぼすことが知られている。
しかしながら、原因はこのトラブルを実際に経験している術者は少なく、原因や予防策の検証が十分になされていなかった。
インプラントの表面性状が深化し、より短いものが使用されるようになってきたことがその理由だろう。
可及的に長いインプラントが推奨されていたマシーンドサーフェスの時代には、埋入窩とドリルへの注水不足による骨火傷が生じやすかったのである。
ところが、昨今この骨火傷がクローズドアップされつつある。
それは、ガイデッドサージェーリーの普及が一つの要因と考えられる。
ガイデッドサージェーリーに用いるサージカルガイドは、従来の外科用ステントと比較して、歯や粘膜あるいは顎骨を広範囲に被覆する上に、ドリリングはパッシブに適合するドリルホールを通して行われる。
そのため外部注水の場合、冷却水が十分に埋入窩形成部に行き渡らず、その結果として骨火傷を引き起こすことが多くなると言われている。
(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー 2016年 VOL.23 4 )
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一見、最先端治療にみえるガイデッドサージェーリーも、正確なインプラントホールを形成しようとすればするほど、骨火傷のリスクは増大します。
骨火傷が生じるとインプラントの骨結合を妨げるので、インプラントの再埋入が必要となります。
ガイデッドサージェーリーを推奨するメーカーは、『短時間で埋入手術を終えることができるので、術者も患者の両方にメリットがある。』と謳っていますが、残念ながら骨火傷のリスクは増大しています。
また、患者さんの多くは、『インプラント手術は可能ならば、1回で終わらせてほしい。』と考えています。
ガイデッドサージェーリーは、手術時間は短いけれど、再手術のリスクはどうしても増大する傾向にあります。
そのような意味で、ガイデッドサージェーリーは、今後本当にインプラント治療のスタンダードになるのか、個人的にはその結果を見届けたいと考えています。

2016年10月 1日

hori (15:09)

カテゴリ:ガイデッドサージェーリーの問題点

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