2016年2月アーカイブ

根面齲蝕や歯根破折は、歯周病に罹患しなければリスクは下がる。

・人が歯を喪失する原因を考えると、齲蝕よりも歯周病の方が多い。
特に中高年になると圧倒的に歯周病が増えてくるわけです。
近年、注目されている根面齲蝕や歯根破折なども、実は歯周病に罹患しなければリスクははるかに下がります。
つまり、歯周病で歯肉が後退してエナメル質に覆われていない根面が露出することでう蝕になる。
さらに歯槽骨が吸収されることで歯に動揺が生まれ、歯根に過剰な力がかかり破折してしまう。
歯科口腔抗菌考 より)
*****
中高年の患者さんのお口を拝見していると、歯周病に罹患している歯の数が増加する印象があります。
また歯周病罹患歯は、歯根が口腔内に露出していることが多く、それゆえに根面齲蝕も増加傾向にあります。
この本でも書かれているように、歯周病に仮にならなければ、根面齲蝕のリスクは減少すると考えられます。
またこの本では歯根破折は歯周病に罹患しなければ発生するリスクははるかに下がるという見解ですが、私は歯根破折に対して若干の見解の相違があります。
歯根破折は歯に過大な力がかかり、さらにそれを支える歯槽骨がある程度しっかりしているために発生するのではなかろうかと考えています。
歯周病に罹患し、過剰な力がかかれば、歯は移動するために、歯根破折は発生しにくいのではないかということです。
ただ、同じように歯周病罹患歯でも、垂直性骨欠損を有する歯周病罹患歯とそれを有さない歯周病罹患歯(いわゆる水平的骨欠損を有する歯周病歯)では起きていることが異なるのかもしれません。
垂直性骨欠損を有する歯周病歯では、その部分以外の歯周組織が相対的に健康であるために、過大な力がかかれば、歯牙移動が生じることなく、歯根破折が生じることでしょう。
一方、垂直性骨欠損を有さない歯周病歯では、歯牙移動が生じやすいために、歯根破折は生じにくいと考えられます。
(もちろん、歯牙移動が生じるかどうかも、歯周病のタイプだけではなく、歯周病の程度による部分もありますが。)
また、歯根破折の発生頻度は、神経のある有髄歯よりも神経のない無髄歯の方が高いのですが、根面う蝕も無髄歯の方がその程度が重くなりやすく、それゆえにその部分からの歯根破折も発生しやすいように感じます。
こうして考えると、歯を失う原因として齲蝕、歯周病、歯根破折と分類はなされていますが、中高年の方の口腔内で、問題が最初に発生しているのは、やはり歯周病であることが多く、齲蝕、歯周病、歯根破折は単独で発生するケースは少ないのではなかろうかと考えられます。
さらに、インプラントは齲蝕が生じることはなく、歯根破折に該当するフィクスチャーの破折はゼロではないけれど発生頻度は非常に小さいものです。
そうなると、インプラントの場合には、インプラント周囲炎を以下に防ぐかについて考えていかなくてはならないということになります。

骨の再生には感覚神経の再生も重要か?

Semaphorin3Aというたんぱく質において高発現しているが、その役割については不明な点が多かった。
Semaphorinは、もともと細胞間のシグナル伝達にかかわる一連のタンパク質群で、神経回路の形成や免疫細胞の調節に関わっており、7つのサブファミリーに分けられている。
Semaphorinは主として神経系の働きを調節していることが知られており、特にSemaphorin3Aは神経軸索の再生に関わるほか、免疫系においては樹状細胞が微小リンパ管を移動することに関わると報告されていた。
2013年に慶応大学の福田らは、神経に発現しているSemaphorin3Aを特異的にノックアウト(遺伝子欠損)すると骨量が減少し、しかもそのノックアウトマウス(Semaphorin3Aタンパク質がないマウス)では海綿骨中に分布する感覚神経の数が減少していることを報告した。
また、通常のマウスでも感覚神経を切除すると骨量が減少することから、正常な骨代謝はSemaphorin3Aによって調節される感覚神経の発生が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
このような報告から見ると、骨再生においては脈管系の再生と同様に、感覚神経の再生も必要であるかもしれない。
顎骨再生 より)
*****
インプラント治療で歯槽骨量が不足している場合、いわゆる骨造成を行います。
この骨造成とは萎縮した顎堤に自家骨を別のところから持ってきて、必要な部位に盛り足す治療行為を指します。
仮に自家骨であっても、骨が生着するころには、持ってきた自家骨が30%近く目減りすることを考えると、骨造成した部位に神経や血管が張りめぐらされた状態にできる範囲が骨造成の限界量なのかもしれません。
仮に造成時にSemaphorin3Aを増やすことが可能であれば、骨造成の限界量も増大させることができる可能性があります。今後の研究に期待したいところです。

2016年2月20日

hori (15:42)

カテゴリ:インプラントと骨造成

歯槽硬線の肥厚と"力"の影響

・「歯槽硬線の肥厚」と「力の影響」は、臨床統計でも関連づけられている。
オッズ比で95%の確率で、歯槽硬線が肥厚するとリスクは17.5倍であり、力の影響を示すサインと成り得ると述べられている。
千葉は、歯にかかる力が強いと考えられる症例の個体差として、「歯根膜腔の拡大」と「歯槽硬線の肥厚」をポイントとしてあげ、以下の3つのパターンを示した。
タイプ1:歯根膜腔の拡大(なし)歯槽硬線の肥厚(なし)
タイプ2:歯根膜腔の拡大(なし)歯槽硬線の肥厚(+)
タイプ3:歯根膜腔の拡大(+)歯槽硬線の肥厚(+)
そして、タイプ1では歯根破折などの歯の構造破壊に、タイプ3では歯周病の進行に繋がりやすいと述べている。
以上のことから、デンタルX線写真における根分岐部への力の影響を疑うX線像のポイントは、以下の4項目となる。
・歯根膜腔の拡大
・根分岐部病変直下の透過像
・歯槽硬線の肥厚
・歯根周囲の骨硬化像、不透過性の高い骨梁像
(根分岐部病変 より)
*****
歯根膜腔の拡大(なし)歯槽硬線の肥厚(なし)であれば、歯根破折に。
歯根膜腔の拡大(+)歯槽硬線の肥厚(+)であれば、歯周病の進行に。
というのは、考えてみると納得のいく臨床的データです。
歯根膜腔の拡大も歯槽硬線の肥厚も何かしらの骨への過大な圧迫するような力な訳ですから、過剰な力がかかって歯が割れない限り、その部分の歯周病は局部的に進行するということになります。
一見、別の病気のように見えても、その部分に過大な咬合力が集中していたという背景因子は同じであるということになります。

2016年2月15日

hori (15:39)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

樋状根の根分岐部?病変

樋状根は下顎第二大臼歯に多く発現し、日本人では30%程度にみられ、近心根と遠心根が頬側で癒合し、舌側では癒合せず、2根の間に深い溝が見られる。
樋状根では、舌側の深い溝の部分の歯槽骨吸収が進めば、プラークは停滞しやすいくなり、スケーリングやSRP時の器具の到達は非常に困難となる。
まして歯根分割や分割抜根といった処置ができないため、病変をかかえたまま経過観察に移行する場合が少なくない。
根分岐部病変 より
*****
樋状根の舌側部分で歯槽骨吸収が進むと、露出した歯根面をきれいにすることが困難となるために、予後が不良となりやすいです。
またこの樋状根は、歯内療法的にも一度内部が感染すると内部をきれいにするのが困難であったり、ストリップパーフォレーションといって穿孔の一種を起こしたりするリスクが高い歯牙でもあります。
そのような理由から、お口の中で最初に失うことが少なくないのが、この下顎第二大臼歯です。
治療も予防も容易ではないのです。
樋状根であったがゆえに治療の予後不良でインプラント治療が必要になったケースでは、逆にインプラントが長持ちする可能性は高いかもしれません。
なぜならば、インプラントが長持ちするかどうかは、その部位の歯をなぜ失わなければならなかったかが把握できているかに影響を受けると考えているるからです。
具体的に言えば、樋状根による治療の予後不良からインプラント治療であれば、歯を失う原因が歯の形態不良による部分が大きく、そのような形態不良は治療後のインプラントには存在しないからです。

2016年2月10日

hori (08:57)

カテゴリ:根分岐部病変

治りにくい歯周病

・池田は著書の中で、治りにくい歯周病の特徴として、
1.力の関与
2.臼歯の根分岐部病変が上下左右にある。
3.プロービングデプスパターンが咬合型(頬舌的に歯周ポケットが深い等)
4.歯の動揺が歯周組織支持量に比較して顕著
5.全身疾患の関与
という項目を挙げており、歯周組織、根分岐部病変に対する共同破壊因子としての力の影響を強く示唆している。
(根分岐部病変 より)
*****
治りにくい歯周病の特徴は以前にも紹介しましたが、やはり力の関与が大きいケースかと思います。
歯に過大な咬合力がかかった場合に、どのような状態になりやすいかというと、いわゆる根分岐部病変を有する歯があったり、レントゲンや歯周組織検査では歯の周囲に歯槽骨はあるのに、歯の動揺の程度が大きいようなケースが挙げられます。
以下に、具体的に根分岐部病変とはどのようなものか説明しましょう。
大きな咬合力がかかる大臼歯には、その咬合力に耐えられるように、通常複数の歯根に分かれています。
歯磨きができているかどうかで歯周病の状態は左右されますが、この力の関与が強く疑われるケースでは、汚れが残りやすい歯と歯の間ではなく、歯の内側中央部あるいは外側の中央部の歯周ポケットが局部的に深くなる傾向があります。
歯磨きが上手ではない人でも、この場所はきれいにできるだろうというような場所の歯周ポケットの深さが増大しているのが、根分岐部病変であると言えます。(もちろん、すべてではありませんが。)
根分岐部病変があり、その部位を抜歯即時インプラントをご希望の方は少なくありませんが、そのような方ほど、インプラントの上部構造を装着した後には、しつこいくらいの咬合調整を続けないとインプラントの長期安定は望めません。
各人の力の関与の大きさは、持って生まれたようなものなので、歯を失ってその部位がインプラントに置き換わっても、そのまま残るからです。

2016年2月 5日

hori (08:57)

カテゴリ:根分岐部病変

トンネル形成術

Hampら(1975)は5年間の観察研究により、トンネル形成術をした7歯のうち、4歯面にカリエスが発症し、3歯が抜去されたことを報告した。
これをパーセントに換算すると43%の喪失率となり、このことから、トンネル形成術は根面カリエスを発症しやすいので予後が悪いと言われてきた。
しかし、この論文ではトンネル形成術を施した歯が7歯と少なく、この結果のみで結論を出すには不十分なサンプル数である。
その他の報告をみると、平均3.1-5.8年の研究で、カリエスの発症率は4.4-16.7%、喪失率は6.7-14.3%である。
近年の5年以上の観察研究ではトンネル形成術が施された14歯中1歯が喪失したのみであったことが報告されている。
これらのことから、トンネル形成術は以前に考えられていたほど予後は悪くなく、生活歯の状態で保存できるメリットもあり、今でも治療の選択肢になりうるといえる。
しかし、10年を超えるフォローアップ研究がほとんどない。
根分岐部病変 より)
*****
トンネル形成は予後が悪いものと考えている歯科医師は少なくないのではないでしょうか。
同じようにトンネル形成とはいっても、予後が良い条件は、生活歯で、咬合力がその歯に集中していない、咬み合わせが安定している、メンテンスを定期的に受けているなどが条件となるでしょう。

このページの先頭へ