2015年10月アーカイブ

スクリュー固定とインプラント周囲炎

・スクリュー固定とインプラント周囲炎の関係性
材質がゴールドであれば、その撓みに術者が気が付くことができるが、チタンになると分からなくなる。
チタンは剛性が高く、不適合であっても撓まない。
そのため、不適合のままおよそ15度角で精度が良いと誤認し、そのままさらに強い推奨トルクで締結すると、応力は骨縁に残留し、これがインプラント周囲炎のトリガーになると考えられる。
今日、「バクテリアが主たる原因」との説が主流ですが、必ずしもそうではありません。
実際、単独修復に比較して、連結された修復物の方が骨吸収が認められる印象があるくらいだからです。
(クインテッセンス デンタル・インプラントロジー 2015年vol.22 5 )
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インプラントの上部構造には、主なものにスクリュー固定とセメント固定があります。
インプラントによる審美治療を追求しすぎたことが関係してか、セメント固定でのセメント取り残しによるインプラント周囲炎が問題になるようになりました。
(インプラント上部の被せ物の辺縁を歯肉縁下深い部位へ設定することで、セメントの除去が困難になりました。)
それならばと、セメントを使用しないスクリュー固定が注目されるようになりました。
しかしながら、セメントを使用しないセメント固定が増えても、期待したほどインプラント周囲炎の割合や頻度が減少したという報告は聞いたことがありません。
セメント固定とスクリュー固定という方法の違いはもちろんありますが、それと同じくらい結果に大きく影響を与えるのが、術者の違いです。
結局のところ、誰が施術するかによって、インプラントの"もち"は決定される部分が大きいということです。
また、今回の記事にもありますが、インプラントメーカーがコストダウンを目的にして、固定するスクリューをゴールドからチタンに変えてしまったことも、スクリュー固定であったも、インプラント周囲炎が減らない理由の一つになっているという指摘もあります。
そしてもう一つ、そもそも現在のスクリュー固定のブームが来る前は、セメント固定が一般的でした。
そのときには、スクリューホールの部分で、咬み合わせの調整がしにくいという理由で、セメント固定が一般的だったはずです。
それを考えると、このブームは終焉する可能性もあります。
しっかりと自分の考えを持ち、"流行"に流されないように仕事をしたいものです。

2015年10月30日

hori (10:21)

カテゴリ:スクリューリテインとセメントリテイン

口臭測定でがんを発見?!

・口臭測定でがんを発見
口臭測定によって、胃・食道のがんを早期に発見する技術が開発され、ロンドンの3か所の病院で本格的な臨床試験が始まった。
英国国営医療(NHS)では、口臭測定による初期がん検査により、年間1億4500万ポンドの医療費削減効果があると見込んでいる。
インペリアルカレッジ・ロンドンのS.Kumar氏ら英国とチェコの研究者が、消化器の腺がんの患者に特異的な呼気ガスの構成成分を発見したもので、口臭測定により呼気ガスの成分を検出することで、胃・食道のがんが判別できるという。
(アポロニア21 2015年 9月号 )
・内臓が悪くて口臭が発生する病気
1. 末期の肝硬変
2. 糖尿病性ケトアシドーシス
3. 腎不全による尿毒症
4. 肺化膿症
・肝硬変による肝性口臭は、アンモニアっぽい臭い(教科書的には"腐った卵とニンニクの混ざった臭い")がする。
これは肝臓で処理すべきアンモニアが処理しきれず、血液中の濃度が異様に高くなる「抗アンモニア血症」によるものだ。
・アンモニア口臭がでるようなところまで肝機能が落ち込んでしまった人は、残念ながら、ほぼ1年以内に肝不全で亡くなる。
・糖尿病で高血糖(血糖値500以上くらい)になると酸っぱ臭い口臭(ケトン臭)がすることがある。
エネルギーを得るために脂肪が分解されると、最終的にケトン体が生まれ、肺から排出される。
このケトン体が独特の酸っぱい臭い臭気がする。
(参考文献2 )
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がんの種類によっては、口臭測定により早期発見がものがあるようです。
また、内臓が悪くて口臭が発生する病気もあるようです。
インプラントを希望される方の中には、糖尿病を患っている方も少なくありませんが、第三者がケトン臭を感じるレベルではないので、比較的軽い糖尿病の方が多いのかもしれません。

2015年10月25日

hori (09:58)

カテゴリ:インプラントと糖尿病

歯周病は完治するか? 答えはNO!

・歯周病は完治するか? 答えはNO!

歯周治療によって歯周病菌の量が減ってくると、出血が止まったり、歯周ポケットが浅くなるなど歯周組織の状態は改善してきます。

しかし、これは歯周病菌と歯周組織の共生関係が取り戻されただけであって、歯周病菌が口腔から完全に駆除されたわけではありません。

常在菌である歯周病菌は駆逐できません。

生き残った歯周病菌はバイオフィルムや歯周組織に潜伏し歯周病の再発を狙います。

歯周病の原因が駆逐できないということは、歯周病には再発の危険がつきまとい、完治はないということです。

(21世紀のペリオドントロジー ダイジェスト )

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歯周病でお困りではない方も、歯周病菌と歯周組織の共生関係が維持されているに過ぎないということになれば、可能な限りプラークコントロールやSPTを確実に行うのは当然として、歯科医院で歯並び・咬み合わせのチェックも併せて行い、力による歯周組織の破壊を回避する方が無難といえることでしょう。

インプラントには当然のことながら、根面齲蝕がない。

・介護施設などの訪問診療でのケアのしやすさでは、インプラントと天然歯を比較すると、インプラントの方がはるかにケアが楽です。
なぜなら、根面齲蝕に悩まされることがないからです。
高齢者の特徴の一つとして、唾液の減少が挙げられます。
唾液が少なくなって、全身疾患が出てくるようになると、なぜか根面齲蝕が増えてきて、天然歯がぽきぽき割れるといった現象がみられるようになります。
インプラントであれば、その心配がありません。
またインプラントはケアできなくなると、インプラント周囲炎を起こして抜けやすくなると言われてきましたが、実際は天然歯とインプラントで有意差はないのです。
インプラントだから、特別歯肉が腫れやすいわけではないのです。
(デンタルダイヤモンド 2015年9月号 )
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・『根面齲蝕にならない分だけインプラントの方がケアしやすい。』というのは納得できます。
天然歯の根面齲蝕、特にクラウン・ブリッジ(被せ)がない状態では比較的早期の発見が可能で、治療内容も軽めの処置となります。
しかしながら、被せがある歯では、被せの辺縁よりも下方、もっと言えば、歯肉上縁よりも下方に齲蝕が発生していることが多いので、治療が困難となる傾向があります。
イメージとしては、被せ物が持続的に受けていた咬合力がマイクロクラックを発生させ、それが経時的に大きなクラックへと変化していく。
クラックが発生する部位は、クラウン辺縁よりも下方。
齲窩(虫歯の穴)はないけれど、触ると何となく柔らかい感触があり、経過観察していると、ある時、崩れるように根面齲蝕になっているという印象があります。
しかも、歯周の状態が悪ければ、その根面齲蝕は確実に歯肉上端よりも下方で発生しているのです。
こうなると、ウエットな状態なので、CR充填(プラスティックを詰める治療)も困難。
痛みがないことも多いけれど、根の治療が必要なケースも少なくなく、実際、被せを除去し、齲蝕を除去すると意外と健全歯質は少ないことも多い。
治療を開始したばかりに、歯の寿命を逆に短くしてしまう可能性もあるのが、この根面齲蝕の治療です。
その根面齲蝕がないというのは、ある意味、高齢者にとってのインプラントはメリットといえるかと思います。

2015年10月15日

hori (11:06)

カテゴリ:インプラントについて

薬で歯周病が完治しない理由

・なぜ抗生物質でバイオフィルムを駆逐できないのか

バイオフィルム中の中の多くの細菌は休眠状態なので、外部からの栄養摂取量は非常に少なくなっています。

抗生物質は、細菌が外部から摂取する栄養物質とともに内部に取り込まれるので、休眠細菌に取り込まれる薬剤量は非常に少ないのです。

代謝の高い細菌は抗生物質をたくさん取り込んで細菌内全体に行き渡らせるため、抗生物質の効果が期待できますが、代謝の低い休眠細菌には抗生物質が効きません。

アジスロマイシンでも休眠細菌には十分な効果を発揮しません。

、バイオフィルム細菌に対して殺菌作用のある抗生物質があるとしても、抗生物質だけで歯周病を治すことはできません。

抗生物質投与によって休眠細菌以外の殺菌は期待できます。

しかし、投与期間が終わると、休眠細菌が目を覚まし増殖して、いずれバイオフィルムは抗生物質投与前の状態に戻ってしまいます。

現在の医療技術ではバイオフィルム中の歯周病菌を駆逐させられないことが、歯周炎再発の第一の理由です。

(21世紀のペリオドントロジー ダイジェスト )

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抗生物質で歯周病が治らないということは、再三記事にしてきましたが、休眠細菌が関わっていることわかりました。

休眠細菌は代謝が低いので、抗生物質が取り込まれる量が少ない。

それゆえに、投与期間が終わり、休眠細菌が目を覚ますと、バイオフィルムは元の状態に戻るということになります。

インプラント治療を受ける患者さんのお口には、歯周病に罹患した歯が存在している場合がほとんどです。

追加のインプラントが必要となるような状態を回避するためにも、歯周病に対する理解を深めていきたいものです。

2015年10月10日

hori (17:38)

カテゴリ:インプラント周囲炎

いわゆる"薬で治す歯周病治療"は免疫に悪影響。

・内服した抗菌薬が必ず通過する腸内には、半数以上がバクテロイデス属である。
これはレッドコンプレックスで注目されているP.g菌やTannerella forsythia(T.f菌)の親戚にあたるグラム陰性嫌気性桿菌である。
・歯周病菌に良く効く抗菌薬ほど、腸内細菌に負荷をかけることになる。
逆に言うと、お腹に優しいと表現される抗菌薬ほど歯周病菌には効きにくいということになる。
・そもそもSRPで有効に歯周病菌が減らないと、歯周抗菌療法はうまくいかないのである。
別な言い方をすると、SRPがうまくがうまくいかないからといって、歯周抗菌療法に移行しても効果はあまり期待できないのである。
・同じポケットに2本のペーパーポイントを突っ込み、それを別々のラボにおくって検査をしてもらうと、一致率はなんと50%程度である。
検査結果が本当にポケット内の状況を反映しているのかと疑ってしまう数値である。
(歯界展望 2015年8月号 )
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いわゆる"薬で治す歯周病治療"について、その是非は個人的には疑問に感じていました。
今回の記事で、歯周病菌によく効く抗菌薬を服用すると、腸内細菌に悪影響があることが分かりました。
一方、私は藤田鉱一郎先生の本を好んで読むのですが、その中に繰り返し、『体の免疫は腸内細菌の状態で80%決定される。』というセンテンスが登場します。
歯周病の状態は抗菌薬で一時的には改善するかもしれませんが、体全体で考えるとマイナスの影響が大きいということになります。
また、1.SRPで歯周病が改善するなら、そもそも抗菌薬は必要ない。
2.SRPで歯周病が改善しないからといった歯周抗菌療法に移行しても効果は期待できない。
そうであるならば、どちらにしても、歯周病治療に抗菌薬が必要なケースはそれほど多くはない、ということになります。
さらに、薬で治す歯周病治療を是と考えている歯科医師が治療の効果の指標としている"細菌検査"も信頼性が低いということになるなら、いわゆる"薬で治す歯周病治療"は当院で行うことはないでしょう。

2015年10月 5日

hori (17:06)

カテゴリ:歯周病の悩み

実は、デュアルキュア型レジンセメントに備わっている化学重合能はそれほど高いものではない?!

・コンポジット系レジンセメントの多くは、デュアルキュア型の重合方式を採用している。
デュアルキュア型レジンセメントでは、表層部は装着直後から高い物性が求められるため、光重合によって速やかに重合反応が進行し、深部の光の到達が困難な部分は化学重合が補償される。
しかし、実際にはデュアルキュア型レジンセメントに備わっている化学重合能はそれほど高いものではなく、光照射を行わない場合は十分に硬化しないことが分かっている。
CAD/CAM修復物はセメントの物性が臨床成績に大きく影響を及ぼすため、使用するレジンセメントが十分な硬化していることは極めて重要となる。
したがって、デュアルキュア型レジンセメントを使用する場合には、適切な光照射条件を設定する必要がある。
(参考文献)
渡部平馬ほか,各種デュアルキュア型レジンセメントの長石系マシナーブルセラミック介在下における硬化度の検討. 日歯保存誌. 2013 ; 56(3) : 223-230.
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歯科セメントは、古くから化学重合が主流でした。
そんな中、科学技術の進歩により、次第に歯科セメントも封鎖性が高く、過大な咬合力がかかっても破壊されない硬いものと変化してきました。
ところが、セメントの物性は高まったけれど、セメントの取り残しによる歯周組織への為害性が問題となりました。
一方、セメントの硬化時間が長いというのも化学重合型セメントの問題点でした。
そこで、『セメントを楽に早く取り除きたい!』という歯科臨床家の願いをかなえたのが、デュアルキュア型レジンセメントでした。
本来このセメントは、修復物周囲は光重合で手早く硬化させ、光が届かない部分は、化学重合で硬化させるというコンセプトの商品でした。
しかしながら、今回紹介する文献では、このデュアルキュア型のレジンセメントの化学重合能が低いことが明らかになりました。
これはすなわち、メーカーが添付しているマニュアル通りにセメントを使用すると、内部の光の当たらない領域は硬化が不十分であるために、歯科臨床家が期待した効果が期待できないということになります。
メーカー同士も競争が激化しているため、"早く簡単に"が合言葉になっており、自社商品に都合の良いデータを添付するケースも少なくありません。
患者さんが損をしないように、メーカーからの情報も「本当だろうか?」という視点を持ちつつ、私たちは歯科診療を日々行わなければなりません。
色々な意味で、新商品に飛びつくことはリスクであると言わざるを得ませんね。 
  

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