2015年4月アーカイブ

インプラント治療成功の要件

インプラント治療を失敗しないための要因として、優先順位を挙げれば、
1.インプラント埋入位置
2.クラウンカントゥア
3.歯肉の厚みと質
4.骨の量と質
の4項目です。
この順位付けの理由は、インプラント埋入位置が正しくないインプラント治療は、たとえどんなに骨質が良くても、軟組織が良好であっても、すぐれたクラウンカントゥアであっても、長期予後を維持することはできず、逆に埋入位置が良くてクラウンカントゥアが良ければ、骨や歯肉の状態が多少ベストな状態でなくても、治療の成功率を上げることは可能ということです。
(新聞QUINT 2014年 12月10日 第228号)
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インプラント治療を成功に導くうえで、いかにインプラント埋入ポジションが重要であるかという記事です。
骨質も硬いところもあれば、柔らかいところもあります。
埋入予定部位の骨質が硬ければ、ドリルは得てして、柔らかい骨質へと流れる傾向にあります。
特に前歯部の抜歯即時埋入では、口蓋側の硬い骨にインプラントを埋入するので、初心者は前方に傾斜するリスクを十分に理解して、実際の埋入手術に臨む必要があると考えられます。

2015年4月30日

hori (08:57)

カテゴリ:インプラントについて

2型糖尿病と歯周病の関係

2型糖尿病と歯周病の関係
・糖尿病を有する人は破壊的な歯周病を有する可能性が非糖尿病患者より約3倍高い。(Emich 1991)
・2型糖尿病群では非糖尿病群に比べて、歯周炎がより重症化し、さらに進行した歯周病の新規発症率が約2.6倍高い。(Nelson 1990)
・2型糖尿病の被験者は、より重篤な歯槽骨吸収の進行の危険性が非糖尿病の被験者の約4倍である。(Taylor 1998)
(日本歯科医師会雑誌 2014年vol.67 NO5)
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糖尿病でインプラント治療を希望される方が少なくありません。
今回紹介したエビデンスにもあるように、糖尿病患者さんは歯周病が重症化しやすいのですが、実はインプラント治療を受けた際にも糖尿病がリスクとなります。
また他の文献で、歯周病の治療により、その状態が改善すると、糖尿病の状態も改善したとの報告もあります。
インプラント治療が安定した状態を維持するためにも、残存天然歯の歯周病治療は必要となるのです。

2015年4月25日

hori (14:57)

カテゴリ:インプラントと糖尿病

根管治療とインプラント治療はどちらが痛い?

根管治療の文献的なフレアアップの発生頻度は8.4%です。
まだ明らかにされていない関連因子がたくさんあると思います。
根尖周囲に透過像がある患歯ではそうではない患歯の9.6倍フレアアップが起きる確率が高いことも根管内に棲息する細菌量が前者の方が多いことを考えれば納得できます。
(参考文献)
Tsesis I, et al. Flare -ups after endodontic treatment : a meta-analysis of literature. J Endod. 2008. ; 34 : 1177-1181.
Iqbal M, et al. Incidence and factors related to flare-ups in a graduate endodontic programme. Int Endod J. 2009 ; 42 : 99-104.
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フレアアップとは、根管治療の際に急に痛みが出る現象で、痛くなかった歯が痛くなるために、歯科医師は患者さんに十分な説明をしておく必要があると思います。
(この根管治療時のフレアアップは、通常の抜歯より痛みレベルが高いことが多いです。)
根の先に病気がある場合、このフレアアップが起きる確率がそうではない場合と比較して10倍近くにも上昇するわけですから、患者さんサイドは、1.痛くなかった歯が痛む可能性があること、2.歯科医師が慎重に根管治療を行おうとするゆえに、治療が長期化する可能性があること、3.長期に亘る根管治療を受けたうえに、根の病気が治りきらない場合があること、そしてもう一つは4.根管を無菌的に治療できても、必ずしも長期に安定した差し歯ができる保証はないということを理解した上で治療を受けなければならないと私は考えています。
ちなみに、こと痛みに関していえば、インプラント治療、特に抜歯即時インプラントは、フレアアップを起こした根管治療よりも痛みレベルがはるかに低い治療法といえます。

2015年4月20日

hori (16:07)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

アピカルシート不要論

・アピカルシート不要論
従来の根管の拡大形成理論では、「生理学的根尖孔から0.5-1.0ミリ上方にアピカルシートを形成する」のが基本的術式です。
この術式でも何ら問題はありません。
しかし、生理学的根尖孔を特定することが実質不可能です。
そもそも生理学的根尖孔の位置が実際には正確にわからないことから、これまでの古典的な生理学的根尖孔の1ミリ上方にアピカルシートを形成するという理論にこだわる必要はないという考えです。
さらに、従来の方法ではアピカルシートの形成時に発生する切削片を根尖孔に詰めてしまうリスクを伴うことが指摘されています。
Ni-Tiロータリーシステムでは、Ni-Tiファイルの先端部の切削能力が低いためにアピカルシートの形成ができないのですが、Ni-Tiロータリーシステムで根管の拡大形成を行う歯科医師の中には「アピカルシートの形成は必要ない」という自分たちに都合の良い理論を構築している人もいるようです。
(考えるエンドドンティクス より)
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歯科の大学教育の中では、根管治療時にアピカルシートはつけるものと習いました。
私も実際の歯科臨床を行う中で、『必ずしもアピカルシートはなくてもよいのではないのか?』とは感じていたのですが、今回紹介した書籍の中で、それを明文化したものにようやく出会いました。
歯内療法の分野では、大学で学んだ内容が現在の主流の考え方とは異なるものが結構存在すると感じています。
アピカルシートもそのうちの一つであるといえます。
また、インプラントの分野でも、時代によって考え方が大きく変わる場合があります。
私たち歯科医師は、常に勉強を続けなければならないのだと改めて感じさせられました。

2015年4月15日

hori (14:13)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

インプラントでは冷たさや温かさを感じるか?

・インプラントでは冷たさや温かさを感じるか?
チタンは冷たさや温かさを感じやすい材料である。
熱伝導率をみると、金属材料は最も熱伝導率が大きく、セラミックス、レジン、エナメル質、象牙質などは小さい値を示している。
チタンは金合金の1/20の熱伝導率だが、生体組織よりはるかに大きく、冷たさや温かさを感じやすい材料といえる。
(歯界展望 2015年2月号)
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はじめて入れ歯を使用される方は、『自分の歯があった頃よりも食事がおいしくない。』という感想を持たれることが多いです。
その理由は、単純に少し噛み応えのあるものを食べようとすると、歯茎に傷ができてしまい、自然と普段の食事内容を変えることを余儀なくされるからです。
また、保険の入れ歯では顎をプラスティックで覆うために、口腔感覚が制限されます。
例えば、温度感覚も例外ではなく、冷たさや温かさを感じる領域も制限されます。
一方、インプラントの主成分であるチタンは、熱伝導性が良好であるために、冷たさや温かさを感じやすい材料といえます。
食べ物をおいしく味わうための要件の一つには、温度感覚もあります。
『インプラント治療してから、食事が楽しみになった。』といういわれる方が多いのも、この温度感覚も関係しているのかもしれませんね。

2015年4月10日

hori (10:16)

カテゴリ:インプラントについて

歯牙破折は、なぜ隣接面から起きることが多いのか?

歯牙破折は、なぜ隣接面から起きることが多いのか?

エナメル-象牙境は、進化の中でもよく保存されている部分であり、食性の変化にはエナメル質の厚さを変化させたり、エナメル小柱の構造を変化させ、咀嚼の要諦に沿うように進化適応しているといわれている。
そのエナメル-象牙境に注目してみると、興味深いことが観察される。
エナメル質は硬いが脆弱性があり、象牙質の支えがなければ崩れやすい。
したがって、境界部にはエナメル質からの圧を受けられるようにエナメル象牙境に凹状の小窩形態と、エナメル叢と呼ばれる緩衝地帯があり、頬側・舌側の緩やかなエナメル-象牙境斜面がエナメル質を支えている。
しかし、両隣接面部には象牙質が歯頸部より垂直に立ちあがっており、エナメル質への支えがない。
大臼歯部の遠心部には、進化の中で歯の構造としては比較的新しく付け加えられた部分といわれている。
おそらくエナメル-象牙境の形態変化という手間のかかる進化にコストをかけるより、手っ取り早くエナメル質を膨らますことにより、咀嚼の受け皿として必要な遠心部分を作ったのだろう。
いわば、構造的には不良品である。
(参考文献)
清水大輔. 歯から見た採食適応. 日本人類学会進化人類分科会ニュースレター, 2010.
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歯牙破折には、隣接面から生じるものが多いというのは、歯科臨床家の多くは感じているものと思われます。
歯牙の構造を考えると、硬いけれども脆弱なエナメル質を支えるエナメル-象牙境が、この隣接面部には存在しないために、隣接面部からの歯牙破折が生じやすいことが考えられます。
また、エナメル-象牙境は、進化の過程でエナメル質の厚さやエナメル小柱の構造を変化させる能力があるとすれば、相対的に軟食傾向にある現代人のエナメル質はその厚さも薄く、エナメル小柱の構造も脆弱である可能性があります。
こうして考えると、このところ歯科ではよく話題に上るTCH(歯牙接触癖)も、古代人と現代人では、エナメル質の質や量が異なることが関係しているのかもしれません。
興味深い分野ですね。

オールオンフォーはインプラント周囲炎にならない?! そんな訳ないでしょ。

・全顎抜歯による口腔内細菌への影響は?
歯周病に罹患した歯すべてを抜去した後、これらの細菌が口腔内から検出されなくなったとする意見と検出されたとする意見に分かれている。
無歯顎になった後にインプラントが埋入される場合、口腔内に菌が残っているとその菌がインプラント周囲組織に伝播し、インプラント周囲炎を引き起こす可能性が考えられる。
今回紹介する論文は、全顎抜歯後のAggregatibacter actinomycetemcomitans(A.a.)とPorphyromonas gingivalis(P.g.)への影響を、培養とPCRで評価することを目的とした前向きコホート研究である。
材料と方法
中等度-重度の成人の歯周炎患者30名が対象となった。
選択基準は4歯以上のホープレスな歯のみが残存し、すべてが抜歯される計画であることであった。
全顎の抜歯前(T0)、抜歯1か月後(T1)および3か月後(T2)に唾液、舌、頬側歯肉、粘膜から試料が採取され、T0では歯肉縁下プラーク、T1、T2では補綴物からもサンプルが採取された。
好気培養、嫌気培養、リアルタイムPCRにより菌の同定が行われた。
結果
A.a.(培養)     A.a.(qPCR法)   P.g.(培養)    P.g.(qPCR法)
T0 4名           4名         12名         13名
T1 1名           1名          0名          8名
T2 0名           1名          1名          7名
舌、唾液中の総菌数について、抜歯前後で変化がなかったが、粘膜から採取されたサンプル数の嫌気培養された場合の平均総菌数のみ、T0とT2の間に有意な減少がみられた。
また、好気性菌の総数の嫌気性菌に対する割合は、T2と比較してT0で有意に高かった。
結論
1. 歯周炎に罹患した歯すべてを抜去して3か月経過すると、口腔内細菌数は減少するが、P.g.などの歯周病原菌と考えられる菌が検出される場合がある。
2. 抜歯によりすべてが解決するわけではなく、インプラント埋入後も感染に対する十分な対応が必要である。
(参考文献)
de Waal YC Winkel EG, Raangs GC, van der Vusse ML, Rossen JW, van Winkelhoff AJ. Changes in oral microflora after full-mouth tooth extraction : a prospective cohort study. J Clin Periodontol 2014 ; 41(10) : 981-989.
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以前、オールオンフォーのセミナーを受けました。
その際に、講師の歯科医師が、『すべて歯を抜歯するので、歯周病菌はいなくなり、そのためオールオンフォーではインプラント周囲炎にはならない。』と話していました。
個人的には、『本当だろうか?』と感じていました。
今回のエビデンスで示すように、やはり口腔内に存在する歯をすべて抜歯しても、歯周病菌は残っているようです。
またそれゆえに、オールオンフォーも他のインプラントと同様、インプラント周囲炎になるリスクをはらんでいるといえます。
オールオンフォーに限らず、歯科セミナーは、それを販売する会社に都合の良いことを話す歯科医師が講師として選択されているので、すべてをうのみにすることは危険だということになります。

2015年4月 1日

hori (14:56)

カテゴリ:インプラント周囲炎

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