2012年3月アーカイブ

インプラントは横向きの力に弱いのか?

インプラントは横向きの力に弱いと聞かれれば、縦向きの力に比較して弱いということはできるでしょう。
(通常、"横方向の力"は、専門的には側方力といい、寝中の食いしばりや歯軋りを指します。
睡眠中は脳が休んでいるために、際限なく咬んでしまうために、問題が生じやすいのです。
これは歯牙でもインプラントでも同じように起き得ます。)
また、横向き寝における嚥下、咀嚼に関わらず、インプラントが反対側の歯と咬みこむ限り、多くの場合、インプラントには側方力はかかります。
インプラントの径と比較して、上部の被せ物の幅が常に大きいことを考えれば、インプラントが力を受ける限り、何かしらの側方力がかかることは分かるはずです。
高校数学で習った"ベクトル"の考え方を利用すると、理解しやすいと思います。
しかし、横向きの力がかかるために、歯槽骨に悪影響があるのかということになると、実際のところ、どうなのでしょうか。
『影響はないとはいえないけれど、短いスパンでは問題になるレベルではない』というのが回答となります。
なぜなら、側方力に対する抵抗力が、歯牙よりもインプラントの方がはるかに大きいので、インプラントがなくなるくらい巨大な横方向の力がかかるならば、当然近くに存在する歯牙は、すでになくなっている可能性が高いから、というのがその理由になります。
ちなみに、歯科医師は歯牙を抜歯する歳に、左右に揺さぶって抜歯しますが、同じことをインプラントに対して行っても、撤去することはまず不可能かと思います。
また、もう一点加えるとすれば、側方力、嚥下、咀嚼によるものよりも、食いしばりや歯軋りの方が、その総量は大きいということも、問題になるレベルではないかということの理由となるかと思います。
それくらい歯とインプラントでは強度が異なるということです。
それでは、インプラントは理論上は壊れないものなのかということになると、そうとも言えないというのが、現在の各メディアから受けているインプラントバッシングに関係していると思います。
どういうことかというと、側方力を受けた場合、歯牙では自然に力をふっと抜く反射があるのですが、インプラントにはこの反射がありません。
それゆえ、インプラントは歯牙がかつてあったときよりも強い力で咬めてしまい、結果としてインプラントの破損するリスクが発生してしまうわけです。
何かしらの原因で失うことになったご自分の歯の代わりに、同じ部位にインプラント治療を受けても、インプラントには、いわば"咬み過ぎ防止センサー"がないわけですから、際限なく咬んでしまうということになります。
こうして考えると、インプラント治療は歯を喪失した方には、非常に優れた方法ですが、それを長期に亘ってよい状態を維持するためには、咬み合わせの調整を定期的に、そして一生継続して行う必要があることが分かるかと思います。
すなわち、経時的に変化しやすい歯牙と、変化しにくいインプラントとを共存させるためには、歯科医師による咬みあわせの調整が必要となるわけです。

2012年3月 5日

hori (08:51)

カテゴリ:コラム

このページの先頭へ