前歯部インプラントへのカンチレバー適応

・前歯部へのカンチレバー適応に関する考察
審美的な観点から、前歯部2歯欠損に対しカンチレバー上部構造とCTGを併用した術式は有効と考えられる。
しかし、生体力学的な観点からは許容できるのだろうか?
2012年のRomeoらのシステマティックレビューによると、カンチレバー上部構造は、通常の上部構造と変わらないインプラントの生存率を示し(98.9%)、生物学的合併症は5.7%にみられたと報告している。
機械的な合併所は、べニアポーセレンの破折が10.1%、アバットメントスクリューの破折が1.6%、セメントの溶解による脱離が5.9%、スクリューの緩みが7.9%に見られた。
一方、審美的なパラメーターは評価がなかったとしている。
2014年のTorrecills-Martinezらのシステマティックレビューによると、5年のフォローアップでは、カンチレバーがあるからといって辺縁骨吸収を起こすわけではないが、マイナーな技術的合併症が見受けられると、やや曖昧な表現で結論づけている。
しかし、これらはほとんどが臼歯部部分欠損に対するカンチレバー補綴装置であり、前歯はほとんど含まれていない。
前歯部2本欠損に対するカンチレバーに関する論文はきわめて少ない。
Tymstraらによると、上顎前歯部の連続する2本欠損に対し、インプラントを2本埋入した場合と1本のみの埋入でカンチレバーを含む上部構造を装着した場合を比較した研究において、ポケット深さ、乳頭の高さ、辺縁骨吸収などの生物学的パラメータ―や患者の満足度において差を認めなかったと報告している。
しかし、n数はわずかで、フォローアップ期間もわずか1年であり、この論文だけで結論を出すことは難しい。
また、一般にインプラントは垂直力には強いが、側方力には弱いと考えられている。
前歯部は噛みしめ時に加わる力は臼歯よりはるかに弱いが、側方運動時の影響を受けやすいと考えられる。
側方ガイドの位置、角度、側方力の大きさ、カンチレバーの距離、アバットメントの太さなどの影響により、上部構造の機械的な破折が問題になると予想される。
(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー 2017年 vol.24 )
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前歯の2歯欠損に対するインプラント治療は、前歯の1歯欠損や前歯の3歯欠損よりも難易度が高いことが多いです。
第一選択は、径の細いインプラントを2本埋入することですが、インプラント-インプラント間の距離が不足する場合は、今回のテーマのように、カンチレバータイプも患者さんのタイプによっては、治療方法の選択肢に加えてもよいのかもしれません。
また個人的には、前歯部の外傷による歯牙破損は、同じ患者さんで繰り返し起きている場合があるように感じています。
これは、患者さんのニュートラルな顎位が前歯部だけ接触させ、臼歯部は接触させない状態にあることと関係しています。
すなわち、前歯だけが咬合接触した状態で、顔面を強打することにより、萌出方向と咬合力方向の異なる上顎前歯が破壊されるということです。
それでは、なぜ、前歯部だけを咬合接触させる癖のある方が多いのでしょうか?
それは、下顎が前に来ることにより、下顎骨に付着している舌も前方に来るために、呼吸が楽になるからでないかと考えています。
そうなると、事故で前歯部を失った患者さんにインプラント治療を行い、不幸にも再度顔面を強打する事故が起きた場合、今度はインプラントが破壊される可能性があると考えています。
というのも、骨格形態がインプラントの治療前後で、前歯部だけを咬合接触させる癖が残って場合が多いからです。
一方、前歯部だけを咬合接触させる癖のない正常な咬み合わせ(上顎前歯部の舌側に下顎前歯部が3-4?の被蓋があり、上下の歯牙の舌側には舌筋が裏打ちをした状態)の方が同じように顔面部を強打した場合、上顎前歯が破壊されるリスクはだいぶ減少するものと推測されます。
こうして考えると、骨格に問題があり、顔面部を強打し、歯牙を喪失したようなケースでは、カンチレバータイプの前歯部インプラントはリスクかもしれません。
この場合の骨格に問題があるタイプというのは、上顎のアーチが狭く上下的に長いケースです。
(またアーチの大きさが左右で異なるケースも少なくありません。)
アーチが狭いがゆえに、前歯の2歯欠損のような場合に、インプラント-インプラント間の距離が不足するわけです。
インプラント治療の相談に来られる方の骨格を精査してみると、骨格的な歪みがある場合が少なくありません。
骨格的な歪みがある方に対して、歯のないところにインプラント治療を行うことは、そこに歯があった数年前の状態に戻るだけなのです。
私たちは歯なくなるスピードを、インプラント治療で遅くしなければならないのです。
行ったインプラント治療が長持ちするために、骨格の評価、咬み合わせの評価が必須となるのです。

2017年5月10日

hori (12:07)

カテゴリ:上顎前歯部のインプラントの

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