インプラントの偶発症の最近のブログ記事

インプラント埋入時における出血。

・重大な出血リスクとなる舌下動脈、オトガイ下動脈も存在する。
生命を脅かす口腔底への出血は術後数時間たってからでも起こりうるので、下顎前歯部において舌側の穿孔は決して起こしてはならない。
術前のCT画像で精査し、動脈の進入孔付近にインプラントを配置しないようにすることも肝要である。
(参考文献)
Budihardja AS, Pytlic C, Haarmann S, Holzle F. Hemorrhage in the floor of mouth after second-stage surgery: case report. Implant Dent. 2006 Jun ; 15(2)148-52.
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下顎前歯部および下顎小臼歯部の舌側の穿孔は、生命を脅かす出血に繋がる可能性があるので注意が必要です。

2024年4月 1日

hori (15:57)

カテゴリ:インプラントの偶発症

歯科インプラントの臨床結果にクラウン-インプラント比が及ぼす影響

・歯科インプラントの臨床結果にクラウン-インプラント比が及ぼす影響:システマティックレビュー
本研究は1歯から数歯の欠損のインプラント上部構造のクラウン-インプラント(c/I)比とインプラントの残存率、インプラントの辺縁骨吸収および補綴的合併症の発現との関係を記述した論文のシステマティックレビューである。
ショートインプラント(SI)、あるいはエキストラショートインプラント(ESI)は、顎骨の吸収が大きく、上顎では洞底が近い症例、下顎では下顎管が近い症例に適用される。
このような症例では対合歯列までの距離が長いために、インプラントが短いだけでなく、C/I比が大きくなるという負の因子が加わる。
本研究ではC/I比1.5で区切り、C/I比が1.5を超える場合とそれ以下の場合とで残存率などを比較した。
その結果、歯冠長が大きいとESIの残存率が低下し、インプラント周囲辺縁骨の吸収が増大するという証拠はないとの結論であった。
通常、ESIは単独埋入を避け、他のESIあるいは長いインプラントと連結することが原則とされる。
本研究では、単独歯欠損と複数歯欠損を交えて研究対象としているため、SIの単独埋入での残存率およびインプラント周囲辺縁骨吸収が、長いインプラントの単独埋入と差がないということではない点を確認したい。
本論文の著者であるRavidaらのもう1編のESIのレビュー論文では、上顎に埋入されたESIの5年での残存率は90.6%とやや低く、一方、下顎では5年で96.2%と高い残存率を示した。
さらに非連結の補綴的合併症の発現頻度は連結されたESIの3.3倍多く、スクリューの緩みは15.2倍多かったと記述している。
またボーンレベルのESIの1年での辺縁骨吸収はティッシュレベルのESIに比べよりおおきな辺縁骨吸収を認めたと記述している。
Penarrocha-Oltraらは吸収が顕著な下顎臼歯部に、1群はブロック骨移植で歯槽部増高を図り通常長さのインプラントを埋入、2群は既存骨に骨内長5.5ミリの複数のESIを埋入した。
2群は既存骨に骨内長5.5ミリの複数のESIを埋入した。
その結果、前者の1年後のインプラント成功率は95.5%、残存率は91.%、後者のESIの残存率は97.1%、成功率も97.1%と、1年の短い経過であるが下顎の既存骨に埋入したESIは高い成功率を示した。
これらの研究を総合してESIの臼歯部単独歯欠損への応用は避ける。
やむを得ず適用する場合は、患者に失敗のリスクが高く推奨できないことを説明する。
複数歯欠損であれば、ESIは隣接するインプラントと連結する。
またインプラント体の中心軸から離れた咬合面の部位での咬合接触をさける、グループファンクションにするなどの上部構造への配慮が必要である。
(参考文献)
Ravida A, Barootchi S, Alkanderi A, Tavelli L, Suarez-Lopez Del Amo F. The effect of crown-to implant ratio on the clinical outcomes of dental implants: a systematic review . Int J Oral Maxillofac Implants 2019; 34(5) : 1121-1131.
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ショートインプラントの治療予後については有意差のあるレベルで結果が悪いというデータはこれまであまりなかったように感じます。
今回の報告により、ショートインプラントあるいはエキストラショートインプラントを特に上顎に単独で使用することは避けるべきであることが明らかになりました。

2020年3月15日

hori (08:10)

カテゴリ:インプラントの偶発症

後上歯槽動脈を損傷した際、止血が困難である理由。

・サイナスリフト時の上顎洞前壁を開窓する際に露出や損傷の可能性のある血管は、後上歯槽動脈と眼窩下動脈の枝(中上歯槽動脈)である。
両動脈は互いに吻合しており、このことが、この血管を損傷させた場合に止血を難しくする理由となる。
吻合したこの動脈を上顎洞歯槽動脈と呼ぶが、日本の雑誌などには、これを上歯槽動脈と呼称しているものもある。
出血の頻度は、解剖学的に問題とされているよりはかなり少ないと報告されている。
(参考文献)
Rahpeyma A, Khajehahmadi S. Alveolar Antral Artery: Review of Surgical Techniques Involving this Anatomic Structure. Iran J Otorhinolaryngol 2014 ; 26(75) : 73-78.
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後上歯槽動脈を損傷した際、止血が困難である理由は、眼窩下動脈の枝と吻合していることが原因であることが明らかになりました。

2019年11月20日

hori (08:19)

カテゴリ:インプラントの偶発症

上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合

・上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合は約23.3%であり、臼歯根尖が洞底粘膜に近接していることは珍しいことではない。
(参考文献)
Kwak HH,Park HD,Yoon HR, Kang MK, Koh KS, Kim HJ.: Topographic anatomy of the inferior wall of the maxillary sinus in Koreans. Int J Oral Maxillofac Surg. 33(4):382-388,2004.
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上顎洞粘膜剥離操作によって残存歯の栄養血管、神経を損傷すると、歯髄壊死から骨補填材に感染が拡大し、上顎洞炎へと移行する恐れがあるので、注意が必要です。

2019年10月 5日

hori (11:17)

カテゴリ:インプラントの偶発症

インプラントも50μmまでは動揺する。

・インプラントは骨組織内で最大50μmまで動揺する可能性が報告されている。
各インプラントには最大で50μmのミスフィットが許容されると予想されている。
(参考文献)
Andriessen FS, Rijkens DR, van der Meer WJ, Wismeijer DW. Applicability and accuracy of an intraoral scanner for scanning multiple implants in edentulous mandibles: a pilot study. J. Prosthet Dent 2014; 111(3):186-194.
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これまでインプラントは、動かないものと考えられてきました。
しかしながら、今回報告で最大50μmまで動揺する可能性が示唆されました。
個人的には、インプラントが動揺するというよりは、インプラントを取り囲む骨が代謝の結果、位置を若干変化させるのではなかろうかと考えています。
こうして考えると、オープンコンタクトがインプラント-インプラント間に生じても不思議はないということになります。

2019年8月10日

hori (08:58)

カテゴリ:インプラントの偶発症

臼後孔

臼後孔は臼後部に存在する下顎管と連続する孔で、頻度は3-75%と報告によりさまざまであるが、Dr岩永譲らのCBCTでの研究では26%の患者に認められた。
臼後孔は下顎孔付近の下顎管から直接分岐する臼後管が臼後部に開く孔であるため、構成要素も下顎管に近い。
多くの場合、レトロモラーパッドから1-2歯分前方までの大臼歯頬側歯肉の知覚支配をしている。
他の副孔同様、大きな臼後孔(径が1ミリ以上)の損傷は極力避けたい。
臼後孔のパノラマエックス線写真での検出率は1%以下と非常に低く、パノラマエックス線写真での判断はできないと考えた方がよい。
(参考文献)
Kikuta S, Iwanaga J, Nakamura K, Hino K, Nakamura M, Kusukawa J. The retromolar canels and foramina : radiographic observation and application to oral surgery. Surg Radiol Anat 2018 ; 40(6) : 647-652.
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日本人の臼後孔出現率は26%程度であることを踏まえ、智歯抜歯時には臼後孔を損傷しないように気を付けてCBCTの読影を行うことが大切であると考えられます。

2019年6月 1日

hori (08:37)

カテゴリ:インプラントの偶発症

BP薬剤は、下顎皮質骨骨密度を大きく上昇させる。

・経口ビスフォスフォネート薬剤が下顎骨に与える影響について
本研究では、骨粗鬆症と診断され、経口BP薬剤を服用している患者に対して、腰椎・大腿骨で用いられているQCT法を下顎骨に応用して、骨密度を皮質骨と海綿骨に分けて三次元的に測定し、経口BP薬剤および服用期間が骨粗鬆症患者の顎骨に与える影響について検討しました。
その結果、顎骨壊死を発症しやすい下顎骨において海綿骨骨密度は、BP薬剤の影響が小さい一方で、皮質骨骨密度は、服用期間によらずBP薬剤の影響によって骨密度が大きく上昇し、長期服用によって皮質骨厚が厚くなること、BP薬剤服用患者のインプラント早期喪失率は高く、インプラント早期喪失患者の皮質骨骨密度が1SD以上有意に高い値を示したことを明らかにしました。
したがって、インプラント治療においては、インプラント埋入手術におけるドリリング時の熱傷による骨壊死と血行不良による骨形成の抑制によって、顎骨壊死のみならず骨結合を含むリスクに関しても、十分なインフォームドコンセントの必要があり、さらにはメインテナンス中にBP薬剤による治療が開始されることがあるため、通常のメンテナンス項目だけでなく、服薬状況の変化についてもきちんと把握することが重要であることが分かりました。
( 日本インプラント学会会誌 Implant News No.27)
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下顎骨に対して、BP薬剤が皮質骨と海綿骨とで異なる影響を与えることが分かりました。
すなわち、海綿骨の骨密度はBP薬剤の影響が小さい一方で、皮質骨は服用期間によらず、骨量・骨質ともに増大すること。
特に皮質骨の骨密度に関しては、1SD以上有意に高い値を示すほどの状態になるので、ドリリング時の熱傷による骨壊死と血行不良による骨形成の抑制によって、骨結合が起きえないリスクがあることが分かりました。

2018年10月20日

hori (08:38)

カテゴリ:インプラントの偶発症

下口唇枝の走行は大きく分けて二つある。

・オトガイ神経の分岐の中で下口唇枝は太い神経が1本で下唇に向かう場合と2本以上で様々な方向から下唇に向かう場合があり、神経損傷でその後の治癒過程に差が出るのはそのためであると思われる。

(日本歯科医師会雑誌 2012年12月号 )

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インプラント埋入手術の偶発症として、神経損傷があります。

その中でも、オトガイ神経の損傷は、下歯槽神経や舌神経の損傷と並び、大きな問題となります。

下口唇枝は、このオトガイ神経の末梢に位置します。

今回の報告で、下口唇枝の神経の走行が、太い神経が1本の場合と、2本以上で様々な方向から下唇に向かう場合があることがわかりました。

この二つのタイプにより、口唇の感覚は何かしらの違いがあるのでしょうか。

また、神経の走行の仕方によって、同じ神経損傷でも、治癒過程が異なるのはもっともな話といえることでしょう。

ある意味、興味深い分野です。

2017年12月 5日

hori (08:48)

カテゴリ:インプラントの偶発症

下歯槽神経障害の10%が、インプラント埴立後。

2007年、デンマークの口腔外科医のHillerupらは、下歯槽神経障害を主訴として外来を訪れた患者(12か月以上の経過を終えた52名)を検討した論文をInt J Oral Maxillofac Surg に記述しています。

その結果、下顎智歯の抜去後が36症例(69%)、インプラント埴立後が5症例(10%)、局麻注射によるもの5症例(10%)で、圧倒的に智歯抜去後の下歯槽神経障害が多く、そのうち60%で知覚が回復し、21%は不変、19%は悪化の傾向を示したと報告しています。

(日歯生涯研修ライブラリー 下歯槽神経・舌神経の神経障害に対する診査・診断と外科的対応 )

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インプラント治療の偶発症の一つに、神経麻痺があります。

インプラント治療では通常、他の患者さんの治療を並列で行うことはありません。

一方、保険診療での下顎智歯の抜歯は、インプラントよりも難易度判定が難しい場合があるので、治療時間が大幅に延長する結果となる場合があります。

また、保険診療であるがゆえに、十分な時間が取れない場合があります。

例えば、次の患者さんをお待たせしていたり、そもそも並列して他の患者さんの治療をする予定となっている場合です。

下歯槽神経障害の原因として、局所麻酔が10%、下顎智歯抜歯が69%という事実を頭に置き、インプラント治療はもちろんですが、一般歯科治療にも注意深い施術が必要だと感じました。

2017年7月 1日

hori (10:50)

カテゴリ:インプラントの偶発症

副オトガイ孔

オトガイ孔周辺に位置し、下顎管と連続し、かつオトガイ孔よりも小さい副孔であり、その中には神経のみや血管のみの場合もあればどちらも含まれる場合もある。
2.0-14.3%の下顎骨に存在する。
その好発部位は報告によってさまざまであり、一定ではない。
前方よりも後方に多く見られるとする報告が多いが、大きな副オトガイ孔は前上方に多いとする報告がある。
オトガイ孔からやや離れた位置での大きな副オトガイ孔には大きな動脈が含まれている場合もある。
また、CBCTの専用viewerによるsurface renderingだけでは小さな孔が観察されないとする報告もあるため、3D再構築画像だけでなく、読影の最初の段階で必ず各スライスで副孔の存在を確認しなければならない。
(臨床解剖学に基づいたComprehensive Dental Surgery )
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インプラント治療の前にCTによる三次元的な画像による診査・診断は今や必須のものとなっています。
下歯槽管の三次元的な位置の把握は当然必要ですが、この副オトガイ孔もあるものとして、画像読影する必要があります。
『副オトガイ孔は、2.0-14.3%の下顎骨に存在する』とのことですが、個人的には思ったよりもその割合は多いと感じました。

2017年6月20日

hori (11:35)

カテゴリ:インプラントの偶発症

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